すべての物事には理由がある。
絶対的存在
午後三時。
天気良好。
体調万全。
「ちょ、ネムリン?何やってるのさ」
「スコーンに…バタ、ァ‥…塗‥てる…」
「それは俺の手だって!スコーンはあっちにあるだろ?」
「ぅ、ん…」
ガブッ。
「いってぇ――!!!」
「ッ…あはは!あ―っはっはっはっは!!ひィ、ヒィ、お腹痛いィやっはっははははははは」
今日も楽しいお茶会に出席中の“三月うさぎ”こと“あたし”。
毎日やってるお茶会も、この2人がいれば飽きることはない。
だってケーキやスコーンと間違って友達の手にフォークぶっ刺したりとか普通する?
しかも刺された方も数分後にはケロッとした顔してるしさ!
もう、爆笑。
それだけでお腹一杯ごちそさま。
あたしはネムリンと帽子屋のコントみたいな言動が好きでここにいる。
「ネムリングッジョブ!アハハハハ」
「楽し、ぃ…ね」
「楽しくねぇよ!」
サクッ。
「にぎゃ――!!!」
「あ―っはっはっはっはっ!また刺さってるよ―!!うひゃひゃひゃ」
…まぁ、二人は個人としても好きだな。
ネムリン可愛いし、帽子屋はツンデレだし。
なによりも彼らと一緒にいるとすべてを忘れられるからね。
あたしはこの時間が一番好き。
「あは、あはははははは!いひゃあ、うふ、ゴホッグヘッ!!!」
「…なぁ。お前って笑ってんのか苦しんでんのかわかんねぇ」
笑いすぎた。
呼吸ができない。
止まらない。
…ヤバい。本気で死にそうかも?
「グフッ。グフフフフ」
「「………」」
「グフウ‥ありゃ?」
あぁ、また、きた。
「止まったか?」
「あ―‥うん止まったわ。ネムリン、帽子屋、たぶんこれからアリスくるよ」
「本当か!?」
「うんホントホント」
アリスが近くにくると、必ず浮かんでくる。
他の感情を消してでも出てこようとする気持ち。
まるでそれは義務であるかのようにさも当然に浮かび上がる。
胸から広がり徐々に全身に浸透していく…
それは“愛”という気持ち。
“愛”は嫌でも思い出させる。
アリスを愛すためにあたしは存在するのだと。
“愛”はあたしを戒める。
アリスが絶対の存在なのだと。
そのうち白うさぎと共にアリスが手を繋いで現れた。
泣きじゃくって言うことを聞かなくなった‥と雰囲気は語っている。
やっぱ白うさぎ様も困った時には様に頼るしかないんだよね!
様は慰めるのプロいからね!!フフン♪
というわけで、ネムリンと帽子屋が話しかけるよりも早くアリスの所に跳ねよる。
「やぁアリス。どうしたのさぁ?涙なんか流しちゃって」
「…」
「泣かないでアリス。ここにいるみんなは君のことが大好きなのに、君が泣いてしまったら彼らまで悲しくなってしまうよ?」
垂れ下がった自分の耳でアリスの涙を拭う。
…そう、あたしが言ったことは真実。
みんなはアリスのことが大好きなんだ。
大好きだから、アリスの歪みを吸い取ろうとする。
アリスが歪みに蝕まれないように。
アリスが純真なままでいられるように。
…あたしは、自ら進んで吸い取ろうとは思わないけど。
「好、きって…言った?」
「言ったよ。みんな大好きだって」
「…は?は私のこと好き?」
泣きすぎて真っ赤な目をした小さなアリス。
頬を涙が伝っている。
…この子は、なんでこんなに直球を投げてくるのかな?
「――…あたしがアリスのことを嫌いな訳ないでしょ?」
不自然な間。
…なんだか自分で自分に言い聞かせているみたいだ。
突き刺さるような白うさぎの視線を肌で感じながら、アリスをお茶会の席に招く。
泣き止ますには笑わすのが一番手っ取り早いのだ。
「さぁ!マナーを守って笑顔でじゃんじゃん飲みまくろぉ――!!」
「……ヒック…」
「まく、ろ‥ぉ……ムニャムニャ」
「…このお茶会にマナーもクソもあるのかよ」
…ザクッ。
「ぎゃ――――!!!」
「アハハハ!帽子屋の手がクラブサンドみたいになってるよ!あっはははははは」
「………ッ、あはは!」
ほら笑った。
キラキラ光るように可愛い笑顔。
純真無垢ってまさにこの子のことを言うんだろうなぁ…。
ん―‥アリスのこの笑顔だけは好きかもしれない。
なんだか幸せな気分になれるような気がするから。
「ネムリン何すんだよ!」
「まぁまぁ帽子屋落ち着いて〜」
「落ち着いてられるかよ!おま「帽子屋のおかげでアリスが笑ったよ?凄いねぇ、偉いねぇ、尊敬しちゃうねぇ♪」
「…そ、そうか?」
帽子屋って単純だね。
と口走りそうになったのを寸の所で止めた。
彼もまた、アリスのことが大好きなのだ。
だからこの反応は当然のものなんだろう…
「うひゃひゃ!ほらアリス、帽子屋にお礼を言わないと」
「うん、ありがと帽子屋!」
「……ッ…あ―はいはいどういたしまして!」
「照れちゃって可愛い〜♪」
「…かわい―…‥」
「う、うるさい!!」
こうしてお茶会は進んでく。
笑い、喋り、食い、飲み、時間君が時間を進めるまで楽しくやった。
ジリリリリリリ――‥
目覚まし時計が鳴り響く。
安眠を妨害するそれをネムリンが思いっきり叩いて止めた。
「四時だ」
「アハッ四時だね」
「そう四時だ。さぁアリス、もうそろそろ帰らないと」
「白うさぎ…わかった。またね、ネムリン、帽子屋!」
アリスは立ち上がり、白うさぎの側に駆け寄った。
そして白バラの脇を通り、元の世界―現実―へと帰っていく。
「帰っちゃったな」
「…ぅん……」
「まぁいいじゃん。あたしたちもそろそろ帰らないと!」
帰らないと明日のお茶会に支障が出ちゃうじゃん。
「…はアリスのこと嫌いなのか?」
「…なんでそうなるの」
「アリスが行っちゃったのに、寂しがらないから」
…そういうことか。
つまり帽子屋は愛しいアリスがいなくなってしまったのに悲しまないあたしを不振に思っている、と。
…面倒だなぁ。
「さっき言ったでしょ?嫌いじゃないって。それがあたしの本当の気持ち」
「…そっか」
「そうだよ。じゃあまた明日ね〜」
この世界は狂ってる。
この世界はアリスを愛でるためだけに存在しているから。
女王は言う。
「わたくしは誰よりもアリスを愛しているわ」
カエルたちも言う。
「私たちはアリスを愛しています!!」
何故アリスを愛でるのか。
彼らに問うたことがある。
みな、口を揃えてこう言った。
「愛することに理由はいらない」 と。
…そんなのペテン師の言うことなのに。
愛することに理由は不可欠。
それがあたし達の場合、アリスが絶対的存在だっただけのこと。
(でも決して絶対的支配者ではない。これ重要ね?)
あたしたちのアリス。
あたしたちが愛すべきアリス――‥
アリスは絶対。
絶対はアリス。
「ねぇ!私すっごく楽しいよ!!」
「あはははは!そりゃよかったねィ?イヒヒヒヒァッはははは―」
「あははっ。はずっとそのままでいてね?」
「…あたしたちのアリス、君が望むなら」
命じられ 課せられた。
あたしは役目を必ず果たす。
誰よりも忠実に。
誰よりも確実に。
世界が歪む その日まで――‥
【あとがき】…という名の懺悔。
歪みの世界に不満を抱きつつもアリスに従っている主人公。
歪みの国のアリスで出てきていなかった三月ウサギでお送りしました。
実は思慮深く頭が回るんだけどバカみたいに笑ってるから(一部除いて)周りはみんな気付かずにいますw
歪みの国ではアリスを愛すことが当たり前になっていますが、一人くらい反感を抱いてる奴がいてもいい気がしたので書き上げてみた
…けどなんかしっくりこない。
やっぱチェシャ猫と女王様も出したかったなぁ;;
でもあんまり詰め込みすぎるとただでさえ文章のまとまりがないのに収拾がつかなくなるから却下!
この主人公は【赤い猫エンディング】で秩序が乱れた後に反旗を翻しそうな人1ですよね。
アリスをバクッと食べちゃえばいいのに…w
そんで歪んだチェシャ猫とバトるといいよ!
それかチェシャ猫と協力して2人でアリスを吟味しちゃえばいいよ!!(黙れ)