夢の悪魔の実
「………」
目の前にはグルグル渦巻き模様のハートの形をした果物が1つ。
いつからそこにあったのか。気付いた時にはそこにあった。
うーんどうしたものかと腕を組み、首をひねり、考える。
こないだサンジと一緒に買出しに行ったけど、こんな果物は買わなかったし…
ていうかこれ、本で読んだ悪魔の実にそっくりなんだけど?
ということはあれか。食べたら変な能力がつく代わりに泳げなくなっちゃうってことか。
それは困るな。うん。
だってあたしはライフセーバー。
泳ぐこと以外に能がない。
これでかなづちになってしまったら、あたしの存在意義がなくなってしまう。
「と、いうわけでこれはナミさんに献上しよう」
確か悪魔の実は超高額で取引されていたはずだ。
今までの借金と利子はチャラになる上に、ちょっとしたらちょっとしてお小遣いがもらえるかもしれない。
ひゃっほい!我ながら名案だ。
というわけで、この時間帯ナミがいるであろう甲板へと向かって歩き出す。
「!お前、こんなところで何してるんだ?」
「‥ルフィ?」
背後から声をかけてきたのはルフィだった。
もう朝ごはんを食べ終わったのか、珍しいな。と思いつつ振り返る。
「ご飯は?もう食べたの?」
「おう!今日は珍しく潜ってねぇんだな」
「あー…これから潜るよ。日課だからね」
「そっか。じゃあでっかい魚取ってきてくれよな!ニシシシ…し?」
ルフィが笑うのをやめた。
どうかしたんだろうか。
ちょっと様子を見ていると、目が輝くのが見えた。
続いてよだれがつーっと伝うのも…
視線の先は、あたしの右手。
あたしの右手には、悪魔の実。
そういえば、悪魔の実って…2つ以上食べちゃうと身体の中で悪魔同士が喧嘩して身体が破裂しちゃうんじゃなかったっけ?
それは死を意味していて、いくらゴム人間のルフィでもやってはいけないことなのだと思う。
とりあえず、この物ほしそうな目から即座に実を隠す。
ばっ!
「あ!今うまそぉーな実隠したろ!!」
「キ、気ノセイジャナイデスカ船長サン?」
「嘘だ!おれは見た!」
どーん!という効果音が似合いそうなポーズをとる船長にどうしたもん
かとない頭を捻る。
食べ物に関してはもんのすごい執着心を見せるルフィ。
ないと言ってもきかないだろう。
現にあたしの言葉を信じていない。
ということは、逃げるしかあたしに手段は残されてないわけで…
「あっ!!!」
「ん?なんだなんだ?」
ダッ!
「あ、!!お前 おれのことだましたな!」
「ふっ。今さら遅いよーだ」
背後を指差してその間に戦線離脱するというウソップに教えて貰った【必殺☆あっ!】が初めて役に立ち、その場を逃げ去ろうと全速力で駆け出した。
しかし、悲しきカナ…
ルフィの腕が伸びるという事実をあたしはすっかり忘れていたのである…――
つまり、結果はわかるように…ルフィが伸ばした腕に、あたしはいとも簡単に捕まってしまったのでございます。
「ルフィ!これは食べちゃダメだよ」
「一口くらいいいじゃねぇか。食い意地張ってんなー」
お前にだけは言われたくないわ!
と、内心派手にツッコミながらも、仲間の命がかかっているのでなんとかこみ上げる怒りを押さえ込む。
嗚呼、甲板まで逃げ切れていればあとは海に飛び込んでしまえたのに。
そしたら(金に目のくらんだ)ナミがフォローに回り、更にルフィにとっては原爆並みの破壊力を持つサンジの「メシ抜きだ」宣言で騒ぎは収まっただろうに。
けれど失敗してしまったのだから、今はこの場を乗り切るしかない。
それにしても…
「…あんたこの模様に見覚えないの?」
「ない(キッパリ)」
「このア……こほん。これは悪魔の実で、ルフィはもう既に1つ食べちゃってるからこれをもしも口にした場合、命を落としちゃうんだよ?それでもいいの?」
「死ぬのは嫌だ!でも食いたい(キッパリ)」
「だからルフィ…今言ったけど食べたら死んじゃうんだってばー」
はぁ。とため息をつく。
だいたいなんなんだ?
さっきご飯を食べたと言っていたじゃないか。
サンジさんの美味しいご飯を食べられたんだから、しばらく我慢しろよチクショー!
てか誰か通りかからないかな…
「…いただきま「ちょっと待てーーい!」痛てぇーー!酷いぞ」
「だーかーらー!!んもう、いい?この実をルフィが食べたら死んじゃうん「…わかった」
説明するために目の前に掲げた実越しに、真面目な顔をしたルフィが見えた。
おぉ!やっとわかってもらえたのだろうか。
よかった。グーで思いっきり殴ったかいがあったというものだ!
「に、やる」
「んぐ!?」
ごくん。
「な、な、な、な………なにすんだ馬鹿ヤローーーーー!!!!」
「ふぎゃぼぐぇ」
懇親の力を込めたグーパンチで、ルフィのことを殴り飛ばした。
壁がメリッという嫌な音を立てたが、ルフィのことだ。
死にはしないだろう。
まさか!まさか!
あの悪魔の実を飲み込んでしまうだなんて!!!!
ルフィの想定外の行動に驚いて、押し込まれた実を飲み込んでしまった。
吐こうとしたが、もともとあのサイズの物体を飲み込めたこと自体奇跡だったのだ。
今さらどうあがいても出せそうにない。
ありえない!これで一生かなづち人生だ…
何の実だったのかはわからないが、これがもしもごみのような能力だったとしたら…もうこの船にはいられないよ…
あー!どうしよう…
今のところ、身体に違和感はない。
いったいどんな能力なんだか…あれがただ果物に落書きが施されていただけならいいんだけれど。
とりあえず誰かに相談すべく、吹っ飛ばしたルフィをズルズル引きずりながら甲板に出た。
「そぉ〜りゃ!」
ドタン。
「ん?なんだ…?」
「あ、ゾロ。起こしちゃってゴメンね」
「…か?」
「?そうだけど?なに、ゾロ寝ぼけてるの」
珍しいものをみたと、ケラケラ笑ってやる。
甲板にはどうやらゾロしかいないらしい…
サンジはキッチンだろう。
ナミはみかんの木の脇で新聞でも読んでるんだろう。
チョッパーは…ウソップと一緒かな?
ウソップには悪魔の実のことで相談したかったし、チョッパーにはルフィのことを一応診てもらいたかったんだけどなぁ…。
でもいないなら仕方ない。
悪魔の実のことはサンジに相談することにしよう。
(ナミには何で食べちゃったの!!って鬼の形相で叱られちゃいそうだし)
ルフィはゾロに預けておいて…
「というわけでゾロ君。ちょっとルフィ君を預かっておいてくれないかね?」
「…ん、あぁ。別にいいが…お前なんか変わったな」
「え、そうかな」
「雰囲気っつーか、なんつーか…」
めんどくさそうに起き上がり、頭をぼりぼりかきながら、一歩一歩こちらに向かってくる。
そして目の前で立ち止まった。
なんだ?ルフィを側まで取りに来てくれるなんて今日のゾロは優しいなぁ。
いつもなら欠伸でもして二度寝に入ってしまうというのに。
「…、今日 香水つけてるか?」
「香水?香水なんてつけてないよ。てかつけても海潜ったらどうせ匂い落ちちゃうし、もったいないじゃん」
「…なんかお前、いい匂いがする」
「え」
視界が緑色に覆われた。
頭はもはや、パニック状態だ。
頭が真っ白レベルじゃない。
言葉が洪水を起こしていて、脳が機能していない。
なななな、なにが、いま、おこっ起こっている、んだ…!
緑って…青なら海だけど、緑って…もしかしなくてもこの色はゾロの頭だよね?
となると、肩にのしかかるこの重みにも納得がいく。
そういえばあたしの腰を支えるようにしてそこにあるものはもしかしなくてもゾロの腕なのか?
=あたしは ぞろに だきしめられてる ?
「…なんか今日のお前、すげぇ可愛い」
「NOーーーーーーーーーー!!!!!!」
なんだその微笑みは!?
お前そんなキャラじゃないだろがゾロ!!
にへら〜っとあんまり可愛く笑うもんだから思わず心拍数が上がっちゃったじゃないかちくしょう!
背後にお花が見えッちゃってお母さんビックリシタヨ。
くそぅ…美形だからって調子にのりおって!
馬鹿なくせに運動音痴の癖にマリモのくせにーー!!
「っサンジ助けてー!!」
「んちゃんが俺を求めてる〜vvV」
バンッ!とドアが勢いよく明けられる音とともにくねくねしながら出てきたサンジ。
動きはキモいがこの際許そう。
とりあえずこのゾロもどきをどっかにやってくれさえすればいい。
「……て、おいクソマリモ。てめぇ何してんだ?」
「あ゛ぁ?見てわかんねぇのかよ…なんだ、羨ましいのかエロコック」
ぐいっと引き寄せられ、身体と身体が密着する。
っダメだ。こういうことに免疫がないから、顔が熱をもってしまう。
なんなんだこの展開は!
ゾロとサンジはにらみ合ったままでいるし、一触即発って感じの雰囲気だ。
誰か誰か誰か…!この現状を打破できる人物は……!
その時、足元で小さくあたしの名前を呼ぶ声がした。
がつっという音とともに、ゾロが横に吹っ飛んだ。
あたしも一緒に飛ばされそうになるが、横から伸びたその腕によって横抱きにされる。
よかった。怪我なかったんだね。
「ルフィ」
「大丈夫か」
「ま、まぁ大丈夫っちゃー大丈夫だけど…」
「そっかそっか。が無事でよかった」
ちゅ。
ちゅ?
「んな!なななんあななななんななな、何するのルフィ!!」
「ルフィ!お前どさくさに紛れて何やってんだ!!ちゃんをさっさと下ろせ」
「ん?は嫌か」
「え、いや、嫌というかなんというか…恥ずかしいから下ろしてください」
「が言うなら、仕方ねぇなー」
ほいっと地面に下ろされる。
嗚呼、今、あたしの顔はきっと茹蛸よりも赤く、トマトもびっくりなくらい真っ赤っ赤なんだろう。
もうだめだ。
早く部屋に戻りたい。
つい数分前までは蒼い海があたしのことを呼んでやまなかったが、今のこの身体ではそれは叶わないのだろう。
これ、なんの能力なんだろう?
ゾロが可愛くなったから、人のことを可愛くさせる能力?
うわイラネー。
てかこの奇想天外な行動をする人たちをなんとかしてくれお願いだ…
「ルフィ!!てめぇ何するんだ!!!」
「ゾロがに触ってるのが不愉快だったからふっとばした。はおれのモンだ」
「っいやいや、あたしはルフィのものじゃないから」
復活したゾロにルフィが言い放った言葉を否定する。
何を言い出すかと思えば何を言い出すんだルフィ。
「だとよ。残念だったなルフィ」
「じゃあおれのモンにする」
「…聞き捨てならねぇな」
「あぁ。お前なんかにはやらねぇ!」
パトラッシュ…僕もう疲れたよ。
あ、見て。天使さんが舞い降りてきた
ふふ。綺麗だねぇ。
天国にいくの?それじゃあ僕たちのことも連れて行って―――…
え?嘘、地獄?
…い、いいよ。地獄でもそっちの方が、ここよりましだろうからッ!
「だから早くあたしを連れ去って天使ちゃんたち!!」
「?何言ってるんだ?」
「大丈夫かよちゃん。チョッパーに診てもらった方が…いや、恋の病だろ?おれが診てやるよv」
「はっ。俺が運んでやるよ」
「あぁ――天使があたしのことを置いて遠ざかっていく…」
「「「(ちゃん)!!」」」
「はいーー!」
「「「俺(おれ)に運んで欲しいよな(だろ)?」」」
「ひ、1人で歩けまっっっ」
ばしゃーーーん!!!
冷たい水。
口に入れば塩辛い味がした。
三人の気迫に圧されて、船から落ちちゃうだなんて…みっともない。
いつもならスイスイーっと泳いで船に戻るのに今日は身体に全く力が入らない。
鍛えているからしばらく息を止めておけるけれど、それでもずっとというわけではない。
ライフセーバーが、海で助けられるとか笑い話だよね…。
ふっと鼻で笑いながら(少し息が漏れた)、助けが来るまでじっと海中に沈んでいく身体で待った…。
「う〜ん、う〜ん…」
苦しそうにうめくの回りを囲むようにして心配そうに見つめる3人の男たち。
何かを掴もうとしているのか、上に伸ばされているの手はむなしく空を切る。
「変なもんでも食ったのかな?」
「てめぇじゃあるまいし、ちゃんに限ってそんなこたねぇだろ」
「…、早く起きろよー」
「う、う゛ー」
「こらさんの柔らかく清らかなほっぺたを軽々しくつっつくな!」
「ぶへっ」
「ZZZZzzzzz.......。。」
彼らは知らない。
数分後に起きた彼女が、三人の顔を見て絶叫するのを。
彼女は驚愕する。
近い将来、夢に出てきたあの果物が、彼女の前に現れることによって。
【あとがき】
メロメロの実の能力者。敵味方関係なくフェロモンを所かまわず撒き
散らす。
ってどうですか?(聞くな
え?なぜナミをださなかったのか?
お客様、いいところに気がつきましたね。
ずばり…時間がなかったからです(どーん!!)
あ、え、いえ、お客様方から読みたいというメッセージが大量に送ら
れてきたら是非とも書かせていただきます!逃
ここだけの話…実はCP9でこの話を書こうと思ってたんだy(ry