「ねぇ、僕のモノになってよ」
独占
「…どうゆう意味?」
「言葉の通り」
恭弥は突拍子のないことをいきなり言い出す。
いや、する事なすこと全てにおいて唐突だと思う。
風紀委員に勧誘されたのも授業中だったし、告白なんてお昼の放送でしてきたくらいだし…。
(恭弥が先生よりも権力を持ってるから咎められたりしなかったけどさ)
そんな彼にあたしは振り回され続けていて、それは今回も例外じゃない。
「…あたしはもうすでに雲雀のモノになってると思うけど?」
あたし達つき合ってるし。
一日の大半は一緒だし。
「違うよ。僕が求めているのはそういうことじゃない」
…じゃあ何を求めてるってのさ?
彼氏彼女だからといって心がつながってるわけじゃない。
超能力者や神様ならまだしもあたしはただの中学生なんだからわかるはずない。
「いきなり自分のモノになれなんて言われてもあたしに何を求めてるのかさっぱりだよ」
「………」
「ちゃんと言葉にして恭弥」
ぷいっと目をそらされてしまった。
心なしか顔が赤いように見える。
…恭弥ってこんなキャラだったっけ?
なんだか恭弥らしくない。
「今日の恭弥ちょっと変だよ…?」
「変‥‥あぁ、確かに変かもしれない」
クスクスと自嘲気味に笑って、こっちに歩いてくる。
普通の人なら逃げ出すだろう。
天下無敵の風紀委員長雲雀恭弥様が自分に向かってきているのだから。
でもあたしは逃げ出さない。
怖くないっていったら嘘になるけど…
ダンッ!
「…何さ?」
後ろの壁が殴られた。
ビクリと心臓が跳ね上がる。
…内心冷や汗だらだらだけど、顔に出さないように努めた。
「、僕以外の男に近づかないでほしいんだ」
「………あの、雲雀さん?それはちょっと無理があるんじゃないかと思うのですが」
恭弥以外の男子と接しなきゃいけない機会なんて一日一回は必ずある。
しかも“近づくな”ってことは、つまり“話をするな”ってことでもあるわけで…
知らない人ならまだしも、クラスの男子とも部活の男子とも話さないでいるわけにはいかない。
あたしにもちっぽけな人間関係ってものがあるから。
「もうちょっと条件楽にならない?知らない人とは喋らない〜とかさ」
「そんなの常識だし当たり前。…これでも譲歩したんだよ?ホントはに近づく者は性別問わずかみ殺したいところだけど「ヤメテ下サイ」…でしょ?」
この人なら本当にやりかねない。
町内の人間を一人残らず消して、なおかつ証拠も残さない完全犯罪なんて恭弥にはたやすいことだろう。
次の日からはあたしの周りに妙な噂話が立ち、誰も半径数十m以内に近づかなくなって………イヤだ。そんなこと考えたくもない。
「最近よく隣の席の彼と喋ってるよね」
「獄寺君のこと?まぁ普通に喋ってるけど…それがどうかしたの?」
獄寺隼人。
同じクラスの隣の席に座るちょっとヤンキーちっくな転校生。
髪の毛は染めているとは思えないほど綺麗な銀髪。
顔もばっちり整ってる。
ちょっと話しかけ辛いな―‥と思いつつ興味本位で話してみると意外や意外!案外面白い奴だった。
頭もかなりいいし、タバコ臭いことと沢田君にぞっこんなことにだけ目を瞑れば文句の付け所がないほどいい男だ。
「彼、のこと好きらしいよ?」
「ふ〜ん。そうなんだ」
獄寺君があたしのことを…
「………ッマジ?」
「に嘘はつかないよ」
「いや、でも信じらんないよ…なんで沢田君じゃなくてよりにもよってあたしなの?」
「さぁ?でも今重要なのはにその気がなくても向こうは好きになってるってこと」
「…そんなこと言われたって……」
私は獄寺君のこと、普通にクラスメートとしか思ってないし。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから、どうしようもなくない?
その時いきなり恭弥の綺麗なお顔がずいっと近づいてきた。
口元は笑っているけど…今にも喉を喰いちぎられるんじゃないかと思うほど怒っている。
…これはマズい。
考えていたことがそのまま顔に出ていたのだろうか?
「…あんまり言うこと聞かないと 飼い殺す よ?」
「か、飼い殺す?噛み殺すじゃなくて飼い殺す?」
「そう。僕がいないと生きていけないように一からちゃんと躾てあげる」
「…勘弁シテ下サイ」
ドスのきいた恭弥の声はジョーズなんて比じゃないほどの迫力があった。
そして言葉に嘘偽りは無いとでも言いたげに目が語っていた。
ぞわぞわ〜っと鳥肌が立つ。
怖い…怖すぎるよ恭弥。
どうせ耳元で囁くのなら、愛の言葉にして頂きたい。
「僕にも人並みに独占欲があるんだよ」
「…はぁ……?」
「彼との会話なんて、ただのコミュニケーションだって、ただの会話の羅列だってわかってる。
けれど、その文字さえも独占したい。
その句点までも支配したい。
全部欲しい。
ぜんぶ。
すべて。
みんな。
手に入れたい」
ポーカーフェイスが崩れた。
悲しくて、辛くて、それでいて怒りを隠せないでいる恭弥。
こんなにも想ってくれているなんて…。
「…何笑ってるのさ」
「へへっ。私ってばホント愛されてるんだなぁ〜と思って」
「ワァォ!今さら気付いたのかい?」
僕は全身全霊をかけてずっと君を愛していたのに。
「…左様でございますか」
「うん」
雨のように降ってくる優しいキス。
二人だけの時間。
「もう逃げようとしても無駄だから。いつだって覚えていてね。は僕のものだってことを」
「あたぼうよ!」
逃げ切る自信なんてもちろんないし、それ以前に逃げ出そうとも思わない。
毎日側にいてくれる恭弥を忘れたことなんてないし、むしろ恭弥のことを片時も想っているあたしにこれ以上何を望むと?
「………やっぱ隔離しようかな」
「え、合点承知之助のがよかった?」
「…ハァ……」
その後恭弥がどこかに「よろしく」と電話をかけ、帰り道で変なサングラスに黒スーツを着た人たちに拉致られそうになったのは偶然だったのでしょうか?
翌朝も拉致られそうになり、死ぬ気で逃げきって学校に行ったら恭弥が
ちょっと驚いた顔をしてからいつもの5割増の素敵な笑顔を浮かべて挨拶をしてくれたのは運がよかっただけなのでしょうか?
すれ違いざまに小さく舌打ちが聞こえたのは気のせいだったのでしょうか?
これからは背後に気をつけて生きていきたいと思います。
【反省文】
収拾がつかなくなりました…orz(by7)
【おまけ】
校庭の隅で身体を縮こませている獄寺君を発見した。
後ろ姿しか見えないけど、腕で顔をこすったり時折しゃっくりをあげたりしていて、どうやら泣いているみたいだ。
あまり関わりたくないなぁ…
なんて内心思ったけど、放っておくわけにもいかない。
獄君が泣いているなんて、ただ事じゃないし…それに彼はファミリーの一員だから。
「獄寺君こんな所でどうしたの?」
「ッ…10代目――!!」
「うわぁ!!」
押し倒されてドスンと尻餅をついた。
ホントに泣いてたんだ…
「10代目…俺、俺ッ‥‥短い人生だったけど10代目にお仕えできて嬉しかったッス。俺がこの世からいなくなってもお元気で!」
「ッなんでそうなるの!?」
今朝一緒に学校へくるまでは普通だったはず…
だとしたら学校にきてからなんかあったんだろうか?
授業抜け出すなんてざらにあるからただサボってるだけだと思ってたのに予想は大ハズレした。
…獄寺君を死に追いやるようなことって一体……?
「…リボーンに何か言われた?」
「違います!リボーンさんは関係ありません」
「じゃあ‥獄寺君に何があったの?」
「…実は……」
10代目のお供を終えてから少し時間があったんで屋上行って一服し
て、教室に戻ろうと廊下を歩いてたんです。
そしたらさんが息を切らして走ってきたので、運がいいなぁと思
いつつ、俺 いつも通り挨拶したんです。
「さんおはよう」
「ごごご獄寺君…オ、オハヨー?」
さんは俺の前に来たとたん俺を避けるようにして教室しに駆け込
んでしまったんです。
なんだか様子がおかしいなぁと思ったんですけどその時は気にしない
でいました。
HRが始まるその時までは――‥
「…さん?あの、俺何かしましたっけ?」
「別ニ何モサレテマセンヨ」
「あの―…?」
本気で困りました。
隣の席であるはずのさんが、俺と反対側の男の席にくっつくくら
いまで遠くにいて、しかも話しかけてもほとんどカタコトで返してきて、極力俺に接したくないようなんです。
担任もなんだかこっちをみて見ぬ振りをしていて――‥
「俺、さんと喋ることも許されないなら……10代目、10代目には本当に感謝しています。
最後までお仕えできずに無様な死に「だからッ!!何も獄寺君が死ぬことないだろ!」…10
代目」
「俺もさんが獄寺君と異常なくらい距離を取っているのはおかしいと思ってたよ?だから一緒にさんが獄寺君を避ける理由を探そう。絶対に死なないで
ね獄寺君!」
有言実行な獄寺君のことだ。
今引き留めなければ本当に死んでしまうと思う。
そんなことになったら…悲しい。
ちょっと変わってるけど、俺の大切な友達だし。
「ッ10代目が俺のことをそこまで思っていてくださったなんて…俺どこまでも10代目についていきます!!」
「うわぁ…だから抱きつかないでよ!こんな所だれかに見られたら――…」
カラン。
「………」
「10代目?どうかなさりましたか?」
獄寺君の想い人、さんがそこにはいた。
校舎の横でこちらを向いたままたたずんでいる。
さんの足元には箒が転がっていた。
たぶん掃除しにきたんだと思う…ってこのままじゃ勘違いされちゃう!!
「さん!あ、あのこれはッ…え―っと、その〜」
「10代目?どうなさったんですか」
ケロッとした獄寺君に現状を手短に伝えた。
徐々に顔色が悪くなり、焦り出す。
「っち、ちちちち違うんですよさんこれは「大丈夫!」
「「…え?」」
「沢田君と獄寺君がいちゃついてたことは誰にも言ったりしないから!」
「「…はい?」」
邪魔してごめんね!と箒を拾い上げ凄い早さで走り出すさん。
引き留めなければ!と思った時にはもう遅かった。
「…10代目〜」
「あ―はいはい」
獄寺君が可哀想になったから慰めておいた。
俺も違う意味で泣きたかった…
その翌日から、さんは以前と同じように接してくれるようになった。
ただし何もかも元通りになったわけではない。
さんは10代目と一緒にいると必要以上に二人にさせようとしたりするし、雲雀に至っては…
「…何?」
「別に‥何も。」
俺のことを見る目が変わった。
時々ホモとか呼んでくるし…
まったく…腹が立つ!
しかも雲雀は――…
大なく小なく並がいい〜♪
ピッ。
「‥もしもし?」
…さんと付き合ってるときた。
しかもラブラブ。
超バカップル。
俺の入る隙間なんてこれっぽっちもない。
「失恋かぁ――‥」
きっと女なんかにうつつを抜かしてたから神様が怒ったんだろうなぁ…。
10代目という人がありながら俺はホント駄目だなぁ。
やっぱり俺には10代目しかいない。
10代目のために生きると決めた。
【あとがき】
おまけを書いてた時のほうが楽しかったと言う罠…