俺とお前だけは例外だと
俺は思ってたんだけどな、と。







手紙





机の上の置手紙。
からの最後のメッセージ。


【レノ、ごめんね】


愛するの突然の失踪。
部屋は荒らされた形跡もなく、残されていたのは直筆の手紙一枚、たったそれだけ。
手がかりが少なすぎて、追いかけようにも追えない。
ただ1人きりの部屋で、佇むしかない。

ダンッ!!
「くそッ…!」

コップの中の水が跳ね、テーブルクロスに染みていく。
じわじわ染みてくその様は、の心を見ているようで――‥息苦しくなった。




人の心は移り変わる。

それこそ呼吸をするような容易さで。


そんなこと、わかりきっていた。


けれど、俺たちだけは違うと信じてた。

あの笑顔で満たされた幸せな時間が、ずっと続くものだと思いこんでいた。





「…まさかいなくなっちまうなんてな、と」

何がいけなかったんだろう。
俺はどこで道を間違えた?
お前がいない今じゃ…もう見当もつかないぞ、と。


やり場のない怒りを手当たり次第にぶつけて晴らす。


が気に入ってた机。

2人で一緒に座ったソファー。

お揃いで買ったマグカップ。


壊すたびに、思い出が溢れだしてきた。
2人でじゃれあい、笑い合っていた日々。
上っ面だけの笑顔じゃなくて、心の底から笑ってた。


あの頃に戻れたら――‥
なんて思ってしまう俺は都合が良すぎるだろうか?






「なぁ…俺は本気だったんだぞ?」


空に向かって独り呟く。





‥。
お前どこに消えたんだ?
俺に痛みだけを残して。
お前のことを忘れるなんて俺にはできないのに…
心も、躯も、お前以外愛せなくなってしまったというのに…


いくら何でも酷いだろ?







ピロロロ――…

暗く静かな室内に、携帯の着信音が鳴り響く。
出るのも面倒くさいし、放っておこうと思ったがコールはいつまで経っても止みそうにない。
はぁ。とため息をつきながら、ズボンの中で振動し続ける携帯を取り出した。


あ、ヤバい…ルードからだ。


「もしもーし」
「…レノか?」
「もちろんそうだぞ、と」

律儀な相棒。
いつかは彼も変わってしまうのだろうか?


「仕事だ。至急本社まで戻ってこい」
「…了解だぞ、と」


…どうでもいいか。



さぁスマートに仕事をこなそう。
上っ面だけの笑顔を貼り付けて。
上着を手に取り、ロッドを装備する。



俺の心の秒針は動かなくなった。
もう時を刻むことはない。
を愛したその時が、永遠に流れ続けるだけ――‥




さぁ、スマートに仕事をこなそう。
のことを考える時間が 一分一秒でも延ばせるように。