誰か止めて――‥

彼を。
モンスターを。
あたしの鼻血を。







誘惑





最近、敵が弱くなった。
(正確にはあたしたちのレベルが上がったから敵を弱く感じてるだけなんだろうけど)
敵が自分たちよりも弱くなると余裕ができる。
その余裕を何に使うかは人それぞれ違って…


「いただき♪」
「あ。ヴァンずるいよ〜」
盗賊のカフスを装備して競い合い盗みまくるヴァンとパンネロ。

「…デジョン」
戦う(服が汚れる)のが嫌だからと敵を片っ端から消し去るアーシェ。

「デコイデコイデコイデコイデコー―イ!!」
一対多数で勝負を挑む熱血(元)将軍バッシュ。

「………。」
静かに黙々と敵を密猟するフラン。


みんな自分に合った技や魔法をちゃんと理解して用いている。
‥けど、一人だけ理解しきれてない人がいるんだよね…。
最近この人のせいで貧血気味だ。

「バルフレアまたやってんのかよ?」
「あぁ。面白いだろ?」

ヴァンの問いかけに、バルフレアが混乱している敵を指差して笑った。
彼は最近あるライセンスを取ったらしく、それを乱発している。
なんでも敵が勝手に殺り合ってくれるのが楽で、何よりもその光景をのんびり眺めるのが楽しいらしい…。
ま、その気持ちがわからなくもない。
昔手こずってた敵が勝手に殺り合って自滅してくれたら嬉しいと思う…。
でも問題は“バルフレア”がその技を使用することなんだよ!


「やべぇな…効果が切れちまった。もう一回やっとくか」

きたぞ自分!
しっかりしろ!!

「“誘惑”」
「………ブハッ!!」

…鼻から血が出た。

「またかよ?大丈夫か?」
「大丈夫だと思われ…」
「おい…本当に大丈夫なのか?」
「バ、バルフレア…」

とっさに顔を反らす。
顔が熱を持っているのがわかるから、きっと顔は真っ赤。
ちらっとバルフレアの方を盗み見ると、本気で心配してくれている彼が目に入った。
みるみるうちに体温が上昇するのを感じる。
そして血行が良くなったせいで元々激しかった鼻血の勢いがさらに増した。

「だ、だいじょうぶ…」
「そんなに出血してるのに『大丈夫』なわけねぇだろ!?」
「ッ!!いやホント大丈夫だから」

今だけはほっといて…!
お願いだから。
逆効果だから。

それ以上顔を近付けてこないで!
…なんて声に出せたらどれだけよかったか。
でもそんなこと言ったら、バルフレアに嫌われちゃうかもしれないからイヤだ。


「…回復魔法が必要?」
「MPあるから私がケアルダをかけておきます」

仲間が次々とあたしの元に集まってくる。
心配してくれるのは嬉しいけれど、ぶっちゃけこの格好は無様だからあんまり見
てほしくない。
…あたしが鼻血を出してるの、(アーシェを除いた)みんなは知らないからいいけどさ。


とりあえず、一行は安全な場所へと移動した。










「最近血ぃ吐いてばっかじゃないか?」
「だよね!あたしも思ってた」

両ポケットいっぱいのお宝が高値で売れたらしく、上機嫌のヴァンとパンネロが言った。
ちなみにみんなはバルフレアの“誘惑”が利かないみたいだ。
…あたしはクリティカルでダメージ喰らっちゃうのに。
誘惑に負けて混乱するモンスターの気持ちが痛いくらいにわかる。
ってかバルフレアに誘惑されてるあたしはモンスターと同じ知能指数ってこと?

…いや、あんなにセクシーなポーズとるバルフレアが悪いんだ!
そうに決まってる!!



コンコン。

ガチャッ。

噂をすればなんとやら。
ノックする音に続いてバルフレアが様子を見にきてくれた。
チャンス到来だ。
今この部屋にいるのはちびっ子達と彼だけだから、ちびっ子達を追い出せば恥ずかしい思いをしない&貧血をおこさないで済むはず!

「調子はどうだ
「もうすっかりいいよ」

どうやってちびっ子を追い出すか…。
殺気でも向ければ出てってくれるかな?

「「ッ!?」」

おっ!
気付いたみたいだ。
そのまま口パクで外へ出るように促す。
2人は顔を青くしながら素直に出ていった。
素直な子に育ってくれてお母さん嬉しい!

「あいつらどうしたんだ?」
「さぁ?それよりバルフレア!!お願いがあるんだけど…」
「ん‥なんだ?」

今しかチャンスはない!
けれど、なんて言えばいいんだろう?



とりあえず思いついた台詞を上げてみた。

【例】
1.誘惑をもう使わないで下さい。
2.バルフレアのセクシーな誘惑悶えて戦闘どころじゃありません。
3.世界で一番大好き!あたしと結婚して下さい!



【回答】
1.単刀直入過ぎ。
2.これじゃただの変人だろ。
 …事実だけどさ。
3.明らかに違う。
将来的には使う予定だけど、その時は今じゃないからまだおあずけ。




「だ、だめだ…!やっぱりあたしには言えない!!」

ドタッ。タッタッタッタッダン!!
!?」

ドアが壊れそうな勢いで走り抜ける。
バルフレアがあたしを呼ぶ声が聞こえたけど、立ち止まったところで鼻血がでなくなるわけではないからシカトした。

言わなきゃつらい貧血生活が続くのはわかってる。
でも面と向かって「誘惑やめて」なんて言えやしない。
あたしが男でバルフレアが女だったならよかったのに…。
バルフレアの魅力にあたしが鼻血を出しててもなんら問題がなかったはずだから。
(スケベと言われようが何と言われようが、それが男のロマンだ!!ってアーシェが昔教えてくれた)
路地に入ってすぐの所に隠れるのにちょうどよさそうな樽を見つけ、後ろに回り込んだ。
ここなら誰にも見つからないはず…。
手を合わせ、目を瞑って神様に祈る。

「神様…どうかバルフレアを性転か「誰をナニするって?」

………。

太陽の光を遮る黒い影。
樽に映されたシルエットは百発百中で銃をぶっぱなす素敵な彼に酷似している。

いや…まさか、ね?

だって宿出てから猛ダッシュしたし。
しかも自分でもどこ走ったか覚えてなかったくらいの速さだったし。
彼があたしのこと見つけられるはずないじゃん?

「すみませんが身内の話なのであなたには………」


「関係、大ありだよな?」

立ち上がってから振り返ると、無敵な笑みを浮かべたバルフレアが立っていた。

「嘘だ夢だ幻だそうに決まってるしそれいが「 現 実 だ 」

凛とした声。
いつもなら上機嫌にしてくれるこの声も、今はただただ恐ろしい。
だってあたし、さっき彼がいる目の前でなんて言った?


「神様…どうかバルフレアを性転か――‥」



…血の気が引いた。
これはもう、覚悟を決めるしかない。



「さて…じゃあ何て言おうとしたのか教えてもらおうか?」


「ぎゃぁ――――――!!!!!」



バーフォンハイムの港町に悲鳴が響き渡った。



















(おまけ)


は最近あるライセンスを取ったらしく、それを乱発している。
なんでも
“俺”に使われるくらいならあたしが使う!!
とか言っていたが…

「…正直、迷惑なんだよな」

がライセンスを使うたび、ヴァンもバッシュも大量出血で倒れてしまう。
つまり戦闘力が大幅に削られちまうってわけだ。

…あ?俺はなんともないのかって??

そんなの決まってんだろ。
毎回、毎回、クリティカルダメージで 失 神 寸 前 だ 。
ある意味最強の技“誘惑”


「…新しい興味の種が早いとこ見つかりますように」

そして願わくばが二度と使わぬように。


カミサマに祈っといた。