準備は出来た。
あとは声に出すだけだ。
電話
プルルルル――‥
「…きた」
額の前で組んでいた指をほどいてソファーを立つ。
暗闇の中青く点滅する子機の前へと歩み寄り、ひと息おいて受話器を取った。
「…もしもし」
「セナ?」
「うん。でしょ?どうかしたの?」
心配しているのだと、伝わるような声で尋ねる。
…彼女が元気がない原因は、僕のせいだとわかっていても。
「…あのね、セナ」
「うん。何?」
本音を言えばその続きを聞きたくない。
けれど聞かなきゃ始まらない。
けれど聞かなきゃ終われない。
だから僕は言葉を待つ。
鋭い刃みたいな言葉でも。
「……好きな人が‥できたの」
「…うん」
「だから…」
「わかったよ。別れてほしいっていうんでしょ?」
「……そう、なんだけど」
ねぇ。
君は今、幸せ?
電話ごしに聞こえる声が、今にも泣き出しそうなのは、僕の考え過ぎなのかな?
「…ねぇ、泣かないで?」
「ッ…泣いてなんか、ないよ……」
「お願いだから笑っていて」
あの頃のように笑顔でいてほしい。
たとえそれが、僕の隣でなくても。
君が笑顔でいてくれれば、僕は幸せなのだから。
「…決めた」
「ぇ…?」
ごめんね。
僕が意気地なしなばかりに辛い思いをさせてしまって。
臆病者の僕も、ちゃんと決心したよ。
ちゃんと言葉にして伝えるよ。
君の笑顔のため。
そして君の幸せのため。
君がもう、泣かなくてもすむように。
愛しいあなたに幸福を――‥
「…サヨナラ、」
たった四文字。
言葉にすればほんの一瞬だった。
けれど発した瞬間に、喉は焼かれて朽ち果てた。
やがて痛みは声を奪い、血のような涙を流し…この関係に終わりを告げた――‥
さよなら。
サヨウナラ。
僕にとっては少しばかり酷な言葉だったけれど、彼女にとってはせめてもの救いになっていますよう…。
通話の切れた受話器を抱いて、独り部屋に佇んだ。
【あとがき】
電話っていいですよね。
表情が見えないから。
ここだけの話…ネタと話だけ先に書き終わっちゃって、キャラクター名は後から書き加えました。
つまり相手は誰でもよかっt(強制終了)