知らない街で闇雲に走ったらどうなるか、思い知らされました。
Dent De Lion
「どうしよう…迷子ニナッチャッタ」
語尾にハートが付きそうな勢いでテヘッと可愛くブリッ子風に言ってみた。
人っ子一人いない裏通りを冷たい風が吹き、頬を撫でた。
…うん。自分でもキモいって思ったよ。
でも知らない場所で一人きりで、しかも誰も通らないときたらテンションが変になるんだよ。
「こういう時には誰か親切な人が声をかけてくれるのがセオリーなんだけど…」
ここは大通りからはだいぶ外れてしまっているようで、人が全然通らない。
所々テレビだかなんだか知らないが音や声が漏れてくる家もあるけど、すみませんと人様の家を訪ねる勇気はうちにはない。
忍者だったらヤだし。
「ナルト―…どこいっちゃったんだよ」
ため息が出た。
山中さんの拳はそんなに痛かったんだろうか。
うちはなんで置いてけぼりにされてしまったんだろうか。
…まぁ、色々うちに非があるのは認めるけれどさ。
あそこは女の子たちに流されないでナルトのことを第一に考えて行動するべきだった。
ナルトはサクラちゃんの前でカッコ悪い所見られたくなかったんだろうなぁ―…
ハァ…とまたため息をついた。
好きな子の前で恥をかくほど最悪なことはない。
ナルトには本当に悪いことをしたと思っている。
できることなら今すぐにでも謝りたい。
けれども、ナルトがどこに行ったのか検討もつかないし…しかも自分が今どこに
いるのかも検討がつかない。
…ホント救いようがないな。
突っ立っていても何も変わらないので、とりあえず今きた道を戻ってみる。
闇雲に走ってたから、見覚えのない建物ばかりだ。
…ヘンゼルとグレーテルみたいに光る石でも撒いて走れば帰れたかねぇ?
「あ、それじゃ夜にならないと帰れないか…」
ヘンゼルとグレーテル案却下の方針で。
…どうでもいいですね、そうですね。
本日3度目のため息をついたところで道が二手に分かれた。
右か左か。
二つに一つ。
「………」
道端に落ちてた小枝が視界に入った。
しゃがみ込んで小枝を拾った。
地面と垂直に立ててみた。
手を離した。
右に倒れた。
「………」
右の道に目をやると、今きた道と同じような光景が広がっていた。
‥左を向いてみた。
「あ」
犬の散歩をしているこどもを見つけた。
言うまでもなく左の道を選んだ。
小枝なんて無視だ無視!
こんなの絶対当てにならないって!
こどもと犬に近付いていく。
声、かけてみようかなぁ…?
でもちょっと躊躇ってしまう。
だってまだ(子犬だけど)リードついてないんだよ?
しかも犬はそれをいいことに気の向くままに歩いているし。
不審者と間違えられてかみつかれたら痛いだろうし困るしヤバいし…この子に話しかけるのは止めよう。
と、決意を固めて素通りした。
クウン…?
「…ん?どうした赤丸」
すれ違いざまに少年が立ち止まった。
そして視線を向けられる…てか後ろ向くに向けないから肌で感じただけだけど。
…何さ?
「なぁ…あんたナルトの知り合いか?」
今、ナルトって――‥!
弾かれたように勢いよく少年の方を振り向く。
黒いフードのついた上着を羽織った少年。
先ほどまで気の向くままに散歩していた犬を抱え、じっとこちらを見つめている。
年からしてこの子もナルトの学友…なんだろうか。
「…君は?」
「俺は犬塚キバ。こいつは赤丸。あんたは?」
「ぅ‥あぁ、俺は。君の言った通りナルトの知り合い。ナルトの家に住まわせてもらってるんだ」
「ふうん…?」
また“うち”って言いそうになった。
自分の名前を言うだけなのにどもる人って他人から見たら変な奴に見えるんだろうなぁ…。
もうこれは常日頃から一人称を俺にした方がいいのだろうか?
ちょっと真面目に検討してみよう…。
「…ナルトん家に、ねぇ?珍しいこともあるもんだな」
ウ〜…ワン。
「だよなぁ‥聞いたことねえし」
ワン!ワンワン。
「おっ!やっぱ赤丸もそう思うか」
…ちょっと奥様方!
ご覧になりまして?
この男の子、犬と会話してますわよ。
もしかしてあたくしの顔があまりにも気持ち悪くてショックをうけて頭がおかしくなっちゃった…なんて?
あらやだどうしましょう。
病院に連れていった方がいいかしら。
「……自分キモいわぁ…」
あまりのキモさに思わず口から言葉が出た。
「……なぁ赤丸、こいつなんか変じゃねぇ?」
ひそひそと犬の耳元でささやく犬塚君。
思いっきり聞こえてるけどね。
う〜ん‥結局、犬と会話しているこの子がおかしいのだろうか?
それとも動物との会話はこの里では普通のこと?
………考えても答えなんか出るはずないし、犬塚君に聞いてみるか。
「あのさ」
「…何?」ウゥ…!
…なぜかもの凄い警戒されています。
いつの間にか腕から降りていた子犬ちゃんなんて今にも飛びかかってきそうな勢いです。
別に取って喰おうだなんて考えていないのですが…あれですかやっぱり顔ですか!?
うちの顔がキモいことに今更気がついて警戒しているってわけですか!!
…誰かこの妙なテンションをどうにかしてください。
とりあえず犬塚君をできるだけ怖がらせないように話しかける。
「犬塚君って、その子とお喋りできるのかな?」
「??当たり前だろ。赤丸は忍犬だぜ?まぁまだ生まれたばかりだし、俺も犬語完全に理解してるわけじゃないからたま〜に通じないこともあったりするけど
さ」
俺らならすぐに喋れるようになるよなぁ―?
そう子犬に話しかける犬塚君はナルト並にめちゃくちゃ可愛いかった。
なんだか犬塚君はどこかナルトに似ている節がある。
犬塚君の方がナルトよりも年相応でガキっぽいけど、一緒にいて楽しいタイプの子だと思う。
顔面もいいし、将来が楽しみだ…女の子に囲まれた暮らしとかしてそう。
「…もしかしてあんた赤丸をさらいに来たのか!?」
「え!?」
「そんなことさせないぞ!」
「ちょ、違うって!うち忍犬なんて見たの初めてだし、ここを通ったのも偶然で犬塚君に会ったのも単なる偶然なだけだから断じて犬塚君のわんちゃんをさらう
なんてことはしないって!」
「…怪しい」
ワン、ワンワワン!
「うん…嘘をつく奴は多弁になるって親父言ってたもんな」
子犬を抱き上げ、自分の身体でこちらからちょうど見えなくなるように庇う犬塚君。
どうやらますます警戒されてしまったらしい…。
犬塚君ちの親父よ、嘘の見破り方とか何てこと教えてんだ。
あなたの素晴らしい教育のおかげでこっちは誘拐犯扱いだ。
「………」
………。
「‥‥‥はぁ…」
とにかく誤解をとこう。
事情を説明すればわかってもらえるはず…
たとえそれが迷子とかいう情けない事情でも。
「なんだそうだったのか。最近連れ去り事件が多いから気をつけろって親父に言い聞かされてたもんだから…疑っちゃって悪かったな。てっきり連れ去り犯なの
かと思ってさ」
ワンワン、ワン…。
「そうそ。犯人と特徴めちゃくちゃ似てたもんなぁ。…それにしても迷子、ねぇ?」
…じと―っとした目で見られる。
そこはあまり深く突っ込まないでもらいたいところだ。
この年になって迷子になったなんてに知られたら、大笑いされたあげく死ぬまでネタにされること間違いないだろう…。
…この世界にがいないでよかったー。
「えっとさん‥だっけ。あんたナルトのこと探してんだろ?」
「あ、うん」
「じゃあ俺らがナルトんとこに連れてってやるよ。さっきのお詫びにさ」
ちょこんと犬塚君が犬を地面におろす。
もしかしなくてもこのわんちゃんが匂いを辿っていくとかそんな流れだろうか…。
――…きっとそうなんだろうなぁ。
結局犬塚君にお願いして、ナルトの所まで連れてってもらうことにした。
この世界の犬はスゴい。
Backl
Next