長い列に並ぶのも、ご馳走のためなら致し方ない。







Dent De Lion





「さっすが流行ってるだけあるねぇ?」
「…だからって、いくらなんでも混みすぎだってばよ」

ナルトがため息をついて肩を落とした。
確かにため息をつきたくなる気持ちもわからないわけでもない。
店から延々と続いている、終わりの見えない行列を目にしたらそんな気分にもなるってもんだ。
里で流行ってる店なんだ。って聞いた時からある程度の予想はしてたけど…まさかここまでとは。


「どうするナルト…結構時間かかりそうだけど待てる?」
「オレは大丈夫だってばよ!兄ちゃんこそイヤじゃない?」
「うち‥あ、いや俺、待つの嫌いじゃないから余裕だし。とりあえず最後尾まで行こうぜ」
「うん…?」

…やっぱり“俺”って言いづらい。
(男に間違えられた時、とっさに“俺”って言っちゃったから今さら直すのも変かな?ってことで口に出すときには“俺”で統一してる)
男っぽい言葉遣いはまだいい。
日常的に使っていたこともあって、あんまり意識しなくても自然に話せるから。
でも一人称はそう簡単には直せない。
少しでも気を抜くと癖でポロッとボロが出る。

「気を張っていかないと‥捕まるのだけはマジ勘弁だし」
「ぇ…兄ちゃんなんか言った?」
「ん〜?こんなに長い列ができるなんてどれだけ美味しいあんみつなのか楽しみだなぁって言っただけ」
「それならきっとほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいに決まってるってばよ!!なんてったってサクラちゃんが絶賛してたお店だから」
「ふ〜ん?じゃあますます楽しみだ」

桜…じゃなくて、サクラちゃんって誰?


なんて疑問を抱きつつ、列に沿ってのんびり歩く。
どこまで続くのか。
ずっと向こうの地平線まで行っても終わりが見えない。
…あの大○軒もびっくりな長さの行列だ。


長蛇の列ってこうゆうことを言うんだろうなぁ…。

ちなみに大○軒の行列とは違い、この行列に並んでいるお客さんの9割方は女性だ。
残りの1割は家族で並んでいるお父さんくらいで一般の男性はいない。
さすがあんみつ。
客層がラーメンとは全然違う。
時々額当てをしたいかにも忍者ですって感じの人や、覆面をした怪しい男の人が並んでいてちょっと怖かったけど気にしないように努めた。



「あれ?ナルトじゃないの」
「へ……?」

ナルトの足が止まった。
ので、当然うちも立ち止まる。

「あ、サクラちゃん!!」
「あんたもあんみつ食べにきたの?」
「うん!オレってばサクラちゃんがすっげ―美味しいって教えてくれたから、あんみつ食べにきたんだってばよ!!」

ナルトに話しかけたのは桜色の髪をした可愛らしい女の子だった。
この子がどうやらサクラちゃんらしい。
彼女の周りには同じくらいの女の子が5、6人いる。
どの子もみんな年齢はナルトと同じくらいか、ちょっと年上くらいだと思う。
仲良さげだけど、彼女も忍者の卵なんだろうか。
“忍たま○太郎”でいくと“くノ一”クラスってのがある筈なんだけど…やっぱりあるのかな?


「でさでさ、オレってば――‥」

ナルト、楽しそうだなぁ。

ナルトを見ているとサクラちゃんのことが好きだということがもの凄く伝わってくる。
というか、ナルトから乱発されてるハートが具現化してうちには見える。
ナルトはこの子にお熱。
しっかり覚えておこう。

なんて、疎外感を紛らわすために一人決意していると、サクラちゃんの後ろにいたこれまた金髪の気が強そうな女の子と目が合った。

「…ナルト、この人は?」
「あ、紹介するってばよ!この人は兄ちゃん。訳あって、今オレと一緒に暮らしてるんだってばよ!」
です。よろしく」

愛想笑いを浮かべながら、軽く会釈をする。
続いて女の子たちも次々と自分の名前を教えてくれた。
‥正直、早すぎてほとんど聞き取れなかったんだけど。
とりあえずナルトの好きなサクラちゃんと、意志の強そうな目をした山中って子だけは覚えられたからよしとしよう。


「…ナルト。あんたあんみつ食べにきたって言ってたわよね?」
「え、うん…」

山中って子と、チラッと目があった。
けどすぐ反らされた。
………何、何何何?
うち目つき、悪かったかな?

「今から最後尾に並んでたんじゃ優に2時間はかかるわ。なんならあたしたちの所にいれてあげてもいいわよ」
「っマジ!?」
「ちょっといの!いいの?入れちゃって…」
「2人くらい別にいいじゃない。みんなも問題ないでしょ?」

山中さんが問うと、みんな口々に賛成だと言った。
どうやら山中って子はこのグループでリーダー的役割を果たしているらしい。
…ま、1番大人びて見えるし、カリスマ性もあるし当然か。


「それにしても今日のいの、めちゃめちゃ太っ腹だってばよ。…もしかして何か裏があったりして……?」

ゴツン。
「あいたっ!」

威勢のいい音がした後、ナルトが頭を抱えてしゃがみ込んだ。
うちとナルトが今の今まで繋いでいた手は離された。
どうやら山中さんがグーでナルトの頭を叩いたらしい。
…音的にめちゃくちゃ痛そうだったよなぁ。
未だに立ち上がらないナルトを見ながら思った。

「まったく失礼しちゃうわ」
「ホントホント!いのちゃんがせっかく親切心で入れてくれるって言ってくれてたのにナルトったら…」
「気にしてないからいいわよ。そんなことよりさん!こっちへどうぞ」
「え…あ、うん」

ぐいぐい背中を押され、列に入れられる。
女の子たちは山中さんを筆頭にしてうち自身に関することを質問してきた。
あまり答える気にはならなかったけど彼女たちはナルトの友達ということだったので、できるだけ丁寧に質問に答えた。
時折ナルトを横目で見たが、未だにしゃがみ込んだままのだった。
…そんなに痛かったんだろうか?
殴ったのは女の子だから大丈夫だろうと踏んでいたが、さすがに心配になってきた。
話に区切りがついた所で、しゃがみこんでナルトに声をかける。

「ナルト…大丈夫?」
「………」

返答はない。
顔を覗き込もうとすると、ぷいっと反らされた。
頭を撫でてやろうと手を乗っけると、乱暴に払われてしまった。
嫌われてしまったのだろうか…?
あ―‥やっぱり殴られてすぐに声をかけてやればよかったなぁ。


「ナル「さん!そんな奴ほっといてあたしたちと話しましょうよ」
「…いや、でもナルトが……」

と、彼女たちの方を向いた時だった。


「‥‥ッ…!」
ナルトが急に、駆け出したのは。


「ナルト!」

叫んだ。
その声はきっとナルトにも届いたことだろう。
でもナルトが立ち止まることはなかった。
人と人の間を縫うようにして猛スピードで駆けていくナルト。
黄色い頭はもうすぐ見えなくなりそうになるくらい遠くまで行ってしまっている。


「ごめん、山中さんたち。俺ナルトのこと追いかけるから」
「え、でももうすぐお店です!さんも食べていったらどうですか?」
「あいつなしで食べても意味ないから」

またね!と言ってナルトの後を追う。
あんみつなんてどうでもいい。
ナルトのもう姿は見えなくなっていたが、それでも追いかけるしかない。


うちはがむしゃらに里を駆けた。















BackNext