穏やかで
平凡な
ただ何気ない日常がほしかった。
Dent De Lion
今日は休日。
里は活気づいていた。
街行く人達は、家族連れが多い。
目の前をすれ違った5、6歳くらいの男の子が両親と嬉しそうに手をつないで笑ってた。
「ナルトどうかした?」
「…へ?いやどうもしてないってばよ!!」
「そう?ならいいんだけど…」
無意識のうちに見つめていた少年から目を離す。
…そうだ、今は一人じゃない。
隣を歩く兄ちゃんを見上げながら思う。
オレに本物の兄ちゃんがいたら、きっとこんな感じなんだろうな って。
外見はカッコいいし、頭も悪くない。
(ちょっと常識のないところもあるけどさ)
オレに歩幅を合わせて歩くだとか細かなところにも気が利くし、なにより一緒にいて楽しい。
その上、料理に掃除までできるオールラウンダー。
…うん。自慢の兄ちゃんだってばよ。
口元が緩んで、気が抜けた。
それがいけなかったのかもしれない。
ドンッ
「痛…ッ」
誰かの肘がオレにぶつかった。
ちょうど肩の部分で、バランスが崩れて尻餅をついてしまう。
お尻からズキズキと痛みが広がった。
「ちょっ…大丈夫かナルト?」
「…うん」
「おいおっさん!謝れよ」
ゴツいおじさんは平然と歩いていた。
そのおじさんに喰いかかっていきそうな勢いの兄ちゃん。
体格的に見て、兄ちゃんに勝ち目はないと思う。
…兄ちゃんって腕とか足とか細いし。
「てめぇ…シカトしてんじゃ「兄ちゃん。別にいいってばよ」
「‥でも……でも、明らかにぶつかってきたあっちが悪いじゃん」
ゆっくりと頭を横に振った。
オレが気を抜いちゃったのが悪かったんだってばよ。
あの人は‥確かオレのことをよく思ってない果物屋の店主だったと思う。
近付いてきてることに気付いてれば、こんなつまらないこと回避できたのに……ヤだなぁ。
オレのせいで、せっかく遊びに行こうとしてた楽しい気分を害しちゃった。
「…ナルト手とかお尻怪我したんじゃない?痛くない?おぶってあげようか」
「大丈夫だってばよ」
すくっと立ち上がる。
じんじん痛むけど、我慢出来ない痛さではない。
このぐらいどうってことない。
我慢だ、我慢。
「本当に、大丈夫?」
「本当に、大丈夫だってばよ!」
…そんなに優しい声をかけられたら、泣きそうになってしまう。
涙を見せてしまったら、この人はもっと心配してしまう。
迷惑をかけてしまう。
…それだけはしたくない。
頑張れオレ!
もうちょいの辛抱だ。
「…信じるよ?」
「おう!」
「じゃあ手をつなごうか」
「…へ?」
手をつなぐ。
それはわかる。
けど“じゃあ”って…?
会話とのつながりなくない?
「ほら早く!」
…ま、いいってばよ。
差し出されていた左手に、オレの右手を乗っけた。
そして再び歩き出した。
なぁ兄ちゃん。
オレ、おじさんに向かって兄ちゃんが怒鳴ってくれたとき――‥めちゃめちゃ嬉しかった。
オレのために怒ってくれて。
オレのこと心配してくれて。
照れくさくって言えなかったけど
「ありがとう」
って心から思ったんだってばよ。
「なぁ…兄ちゃん」
「ん、何?」
「…いきなりいなくならないでね?」
「もちろん。え?ってか俺、そんなに方向音痴に見える?」
「えーっと‥うん」
嘘だ。
兄ちゃんはどちらかというと方向感覚はいい方だと思う。
2、3回通っただけでその道はもう覚えてるみたいだし。
でもなんか兄ちゃんはオレの問いかけを違う意味でとらえちゃったみたいだから話を合わせといた。
わざわざ兄ちゃんに執着してることを自分からバラすこともないし。
「マジかよ!?あ―方向感覚だけは普通以上だと思ってたんだけどなぁ‥」
「えっと、もしどっか行くときにはちゃんと俺に言ってからにしてってばよ?迷子になったら困るから」
「うん。そうしとく」
うん。そうしといて下さい。
「………」
どこにでもある幸せそうな家族を見つめるナルト。
ぼぉ―っとしていて、焦点があっていない。
仲のいい親子を見つめるその顔は――‥なんだかとても、儚くて。
「どうかしたか?」と問うてみれば返答は「どうもしない」とのこと。
…うちにはそうは見えなかったんだけど。
ナルト自身、自覚してやってたわけじゃないのかもしれない。
今流行っているらしいあんみつ屋に向かって、身体の小さなナルトに歩調を合わせてのんびり歩く。
…突き刺さるような視線を感じながら。
“超”が付くほど鈍感だったうちが、こっちにきてからは感覚が鋭くなっていた。
だから以前は微塵も感じなかった視線を肌で感じ取れるようになった。
…それがうちに対して向けられているものじゃなくても。
「ナルトって有名人だったりする?」
「有名ってほどじゃ…あ!もしかしたら将来火影になる男として有名になってるかもだってばよ!!」
「そりゃ凄いな」
「へへっ!」
ゴメンナルト…99%違うと思うんだ。
火影って日本でいう首相みたいなもんでしょ?
ナルトはただ大統領になりたいって夢を持つ、どこにでもいる少年なわけで…
小さな子どもの夢なんかに、いちいち大人が茶々つけて視線送ったりするかな?
普通しなくない?
だとしたらなぜ視線を送る必要があるんだろう。
何かナルトに対して、特別な理由があるのというのだろうか。
…直接聞いてみる?
ってさすがにそれは無理か。
ドンッ
「痛ッ…」
ナルトの小さな呻きと共に、隣にあった気配が消えた。
振り返ってみると地面に座り込んだナルトとちらっとナルトを見て含み笑いをしているおっさんがいた。
あの人もさっきナルトに嫌な視線を送っていた人だ。
おっさんはうちの存在に気付いたのか、再び足を動かし始めた。
逃してはならないとナルトの無事を確かめてからすぐにおっさんに向かって怒鳴った。
「おいおっさん!謝れよ」
ゴツいおじさんはうちの声を無視して平然と歩いていく。
その態度に苛ついてもう一度怒鳴りつけようとしたらナルトに止められた。
まさかナルトに止められるなんて思っていなかったため、動揺してしまう。
ああ、でも止めてくれたのがナルトでよかったかもしれない。
他人に止められてたら、逆上してあのおっさんに掴みかかっていたと思うから。
怪我はしていないというナルトの言葉をとりあえず信じて、あんみつ屋に向かうことにした。
今度は手をつないで、変な視線からは遠ざけるようにして。
ナルトは気付いているのだろうか…
自分にまとわりつく嫌な視線に。
「…気付くわけないか」
ナルトはまだ小さな子どもだしね。
やっぱうちが守ってあげないと。
衣食住すべてお世話になってるわけだし?
それくらいはしないと駄目だと思うのよね―。
「ねぇナルト。俺もアカデミー入学できたりしないかなぁ?」
守るためには力がいる。
この世界での力は“忍術”
根本的に腕力や脚力なんかの力とは違う。
新しいことを覚えるのなら、熟練者に教えを請うのが手っ取り早い。
学校はあまり好きではないけれど…ナルトのためなら通ってもいいかなって思う。
本で学ぶっていう手もあるけど、時間を食うし、わからない所があった時のことを考えるとやっぱり面倒だ。
「え!何々?兄ちゃんうちのアカデミーに通うのかってばよ?」
「ん―‥通いたいなぁって思ったんだけど…もう歳だし無理かな」
「そんなことないってばよ!!俺、明日イルカ先生に聞いてみる」
「ナルト‥ありがとな」
笑うナルト。
その姿は年相応のちっこくて可愛い悪ガキそのものだ。
あまりの可愛さにギュッと抱きしめたくなるのをなんとか踏みとどまって‥代わりにふわふわした金髪の頭を撫でといた。
ナルトは強い。
けれど同時にどこか儚く、そして脆い。
そんな印象を――本当にごく稀にだが――受けることがある。
今みたいな笑顔で、まっすぐ育ってくれればいいんだけれど…
………あ!
うちアカデミーに通えることになったとしても、お金持ってないから駄目じゃん!
しかもナルトが学校の先生に聞いてくれたとしたら、うちの存在バレちゃうんじゃ…?
それはマズい。
非ッ常にマズい。
マズすぎるってくらいマズい。
「ま、まぁナルトが俺の先生になってくれるのが1番いいんだけどなぁ―…なんて」
「オレが兄ちゃんの先生…?」
「うん。ナルトが忍術教えてくれれば俺はそれでいいし」
「で、でも一応イルカ先生に聞いてみるってばよ!」
う〜ん…本音を言えば、聞かないでほしいんだけどな。
気を使ってくれてるんだろうね、きっと。
「じゃあアカデミー入学拒否られたらさ、忍術の基礎とか教えてよ。ね、ナルト先生!」
「…お、おう!任せろってばよ」
うん。
なんかナルト汗かいてて顔色が青くなった気がしたけど、きっと気のせいだよね。
あんみつ屋までは、あと少し…。
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ちなみに
金曜日:出会った日(始業式)
土曜日:半日
日曜日:この日
となっています。ってかでないと変な時間割になってしまうので急遽変更しました(どうでもいい設定w