闇が、静寂が、支配する。
時刻は午前25時。







Dent De Lion





窓の外には大きな月が空高く登っている。
月明かりを頼りに枕元の目覚まし時計を取ってみるとちょうど1時を指していた。

「…夜中に目が覚めるなんてついてないってばよぉ」

夜は怖い。
闇が世界を覆い尽くすから。
闇は怖い。
すべてが真っ暗になるから。
それに闇に潜むモノ――…たとえばおばけとか出そうだし。
今日は晴れているからまだいいけどさ。
雨の日なんかは早く眠れるように集中しなきゃだから大変だ。


――…早く寝るってばよ!

そう思い、目をつぶっていると時計の音が聞こえてきた。


ちくたく ちくたく ちくたく

「………」


早く眠ろうと思えば思うほどその音を意識しちゃって、ますます寝れなくなる。
…起きて電気つけようかなぁ。
けどスイッチのとこまで歩くのも怖いってばよ。
ってか目を開けるのも怖いし…。

「じっと眠くなるのを待つしかないか…」

窓に背を向けるようにして、ゴロッと寝返りをうつ。
と、コツッとおでこがぶつかった。
温かいそれは規則正しく上下に動いている。

「…あ、そっか」

隣に兄ちゃんがいるの、すっかり忘れてた。
昼間に買ったオレと色違いのしましまパジャマ。
(お揃いの帽子は本気で嫌がってたから買わなかった)
同じベッドで眠るなんて…なんだか家族みたいでくすぐったい。

「へへっ。」

頭をくっつけるようにして寄り添う。
弄んでいる手をパジャマの端に掴ませた。


感じる鼓動。
触れ合う体温。



すう―っと意識が沈んでいくのがわかった。















「…喉乾いた」

夜中にふと、目が覚めた。
ぼーっとしながら台所を見つめる。
自分の家とは作りの違うそこ。
あぁ、そういえばナルトん家にいるんだったっけ?

「…しばらく慣れそうにないな」

喉の乾きを潤すために水でも飲もうと起き上がる。
ベッドから降りようと踏み出したら、パジャマが何かに引っかかってたらしく前につんのめった。
ギョッとしつつ振り返ると、ナルトの手がしっかりとパジャマを握りしめていた。
赤ん坊のようなその仕草にちょっと笑ってしまう。

「ハハッ……本当に可愛いなぁ‥」

頭を撫でてやるとナルトはニコニコ笑った。
見た目に反して柔らかい髪が指の間を通る。
綺麗な金髪が羨ましい。
「えいっ」とほっぺを指でつつくと、少しだけ眉を潜めてから、また幸せそうに眠り始めた。
…天使の寝顔ってまさにこれのことを言うんじゃない?


「…ぁ、水」

あんまりナルトが可愛いもんだからすっかり忘れていた。
パジャマを掴んでいる指を、一本一本丁寧に外していく。
慎重に、そっと、出来るだけ優しく。
外しきったところで、流しの前に行き蛇口をひねった。
コップに並々と水を注ぎ、乾きを潤すために一気に飲み干す。

「…ふぅ」

いがいがしていた喉の違和感も乾きもなくなった。
洗うと音がうるさくてナルトを起こしてしまうかもしれないので、たらいの中に
はってある水にコップを入れておいた。
洗うのは明日でいい。
まだ完璧に意識が覚醒する前にベッドへと戻る。

「あれ?」

少し捲れた袖から覗く腕。
なんだか黒く見える所がある。
影になっているせいかとも思ったが、気のせいではないらしい。

「…ちょっと失礼します」

一礼してから袖をたくし上げる。
…痣だ。
しかも真新しい。
喧嘩か…それともぶつけたのかな?
このくらいの年ならどっちもありえる。
…今度聞いてみよう。



「ねぇナルト…明日は一緒に何しようか?」

ナルトに布団をかけ直してやりながら聞いてみた。
もちろん返事はなかったけれど。
できれば楽しい思い出をいっぱい作りたいね?
うちがいつかいなくなった時に、うちのことを思い出して一緒に笑い合っていたって覚えていてくれれば嬉しいから。
君もうちも、寂しくならないだろうから――…



放られていた手を握りながら、2人で寝るにはちょっと狭いベッドで眠る。



明日もきっと、笑顔ですごそうね?










窓から注ぐ月光が 彼らを優しく包み込む。

どうか良い夢ならさめないで。
安らかなる眠りを彼らに。















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最後の3行はこれから暗いほうに進んでいく可哀想な主人公とナルトへ送る、せめてものプレゼントです(いらんがな