笑って‥
オレを見て…
それだけでいいから。
Dent De Lion
オレは 兄ちゃんについて、なにも知らなかったのだと…ここ最近思い知らされた。
どこの里で なにをしていたのか。
年はいくつで なぜ家族がいないと言ったのか。
なんでオレの…どうしてオレの側にいてくれるのか。
…なにか目的があって、オレと一緒にいるのか。それとも単なる気まぐれか。
正直、聞きたいことは山ほどある。
例をあげたらきりがないほどに。
でも、質問して、それがもし かん に障っちゃったらと思うと、やっぱり言葉にすることができない。
兄ちゃんがいなくなってしまうかもしれないと思うと、聞けなくなる。
他の大人みたいな目をして俺から離れて行っちゃったらと思うと…怖い。
今の兄ちゃんとオレを繋いでいるものは‥何もないのだから。
最近はお互いぎこちない感じで、兄ちゃんがいついなくなってもおかしくない状態になりつつあるし…
「…兄ちゃんが、オレの本当の兄ちゃんだったらよかったのに――…」
家族になりたかった。
仲間とも、友達とも違う、強い絆で結ばれていたかった。
もし絆がなかったとしても、家族であれば血が繋がりを証明してくれた
だろうに…
なんで、オレとあの人は――…
ふと顔を上げると、昔よくお参りにきた神社がそこにあった。
無人の神社。
オレ以外、誰もいない。
ひっそりとしたその空間を作り上げているその中心に、一歩また一歩、近づいていく。
祀られているのはおいなりさん。
ちょこんと兎を模した饅頭が供えられている。
…お願い、したら叶えてくれるかな?
ポケットから小銭を取り出し、全て賽銭箱に投げ込んだ。
――‥
神様。
おいなりさん。
お願いです。
兄ちゃんと、一緒にいさせてください。
兄弟だとか、家族だとか…そんな贅沢は言わないから。
ただ兄ちゃんが側にいてくれるだけでいい。
もうそれ以上、何も望まないから…
だからお願い。
兄ちゃんをどこにもやらないでってばよ。
オレ、いい子になるから…
悪戯なんて、もうしないから。
「困らせてごめんなさい。怒らせてしまってごめんなさい。
兄ちゃんにかまってほしかった…、兄ちゃんに叱ってほしかっただけなんだ」
一緒にいると、暖かい気持ちになれた。
心が、身体が、軽かった。
ほんの些細な幸せも、兄ちゃんと一緒なら何倍にも膨れ上がった。
「…オレ、兄ちゃんのことが大好きだってばよ」
だからいなくならないで…
だから神様お願いです。
オレから兄ちゃんを取らないで‥‥!
「兄ちゃんがいない生活なんてもう――…ヤだよ」
涙が頬を伝っていた。
Backl
Nextl