「ふぁ〜あ。‥眠てぇ」


なんかいいことねぇかなー‥……







Dent De Lion





「ん…これ……さんだ」

風が運んできた匂い。


しばらくすると、風上の方から猛スピードでさんが走ってくるのが見えた。
何故か、口をゴシゴシ擦りながら下を向いて走っている。

危ねぇなー‥。
ろくに前も見ないで走っているせいで、さっきから人と擦れ違うたびにぶつかりそうになっている。
…声、かけてみっか。





さん!」
「ッ!?…キバ、君」
「だ、大丈夫っすか?顔真っ赤ですけど…」

手を引いて引き止めたさんの顔は真っ赤で、まるでトマトの様だった。
よく見りゃ、目も涙目だし…


「っ…そんなに赤いかな?」
「あ、いや、まぁ‥そうっすね」

自分の頬に手を当てて、熱を確認するさんを観察する。
赤く火照った頬っぺた。
息が上がって肩で呼吸している。
全力疾走してきたから?
それとも風邪で熱があるからか?
どっちにしても、身体を冷やすべきではないと思う。
‥よし。さん薄着だし、俺のコート貸してやろう。



「??キバ君??」

ゴソゴソと上着を脱ぎだす俺を不信に思ったのか、さんが声をかけた。
‥よくよく考えてみると、結構恥ずかしいことをしているのかもしれない。

クゥーン…
「うっせぇぞ。赤丸」

顔が赤い?
そんなことわかってるっつーの!
クソッ!俺は露出狂なんかじゃねぇぞ!!



「…ん!」
「え?」
ッ!さん顔真っ赤で風邪っぽいじゃないですか!だからこれ、 羽織ってて下さい!!」
「うわっ」

バサッと自分の上着を投げつけた。
あーあ。普通に渡せばいいのに…。って顔で赤丸がこっちを見上げているのがわかった。
赤丸…俺も全くもって同意見だ。
でも面と向かってあんなこと言って、上着を手渡しするのは照れ臭かったんだから仕方ねぇだろ。


…ちくしょう。

なーんでこんなことになってんだか。
ハズい。
…顔が熱い。





「えーと‥キバ君。これ、貸してくれるのは嬉しいんだけど…」

ふ、と視線を上げると肩に俺の上着を肩にかけたさんが、申し訳なさそうに頬をかいていた。
見てすぐに分かった。
同時に、顔の温度がますます上がっていくのを感じた。


俺が渡した上着は、大人であるさんには小さかったのだ。
さんは俺を気遣って、一応羽織ってくれたのだろうけど、羽織るというよりは肩に乗っかっているという表現の方が正しい。



…俺はガキで、さんは大人。



どうすることも出来ない現実を つきつけられたような気がした。
胸がぎゅっと締め付けられて、苦しくなった。
目には変な汗が溜まった。
悔しい。
俺は、好きな人のために何も出来やしない。



パサッ。

「ぁ…」
「コート、貸してくれてありがとう。でもこれはキバ君が着ててね。俺のこと心配してくれるのは嬉しいけれど、顔が赤かったのは………その、走って息切れし てただけだからさ」
クゥーン。。


下を向いたら、収まりきらなくなった一滴が、目から溢れて地面に小さな染みを作った。
赤丸は気付いたようだが、幸いさんには気付かれなかったようだ。
ダッセェ…こんなの俺じゃねぇ。

ゴシゴシ目を擦って、無理矢理いつもの俺になる。
さんといるといっつも調子崩れちまうんだよなー…!
何がいけないんだ?
使い慣れない敬語か?
こうなりゃヤケだ。ヤケ!
タメ語で話してやる!
‥これ以上、自分を見失うのは嫌だ。

「なぁ〜んだ!それならそうと早く言ってくれりゃよかったのに。あ〜寒かったー」
わふ…?



言ってしまった…


さんと目を合わせるのが気まずく思えたので、とりあえず笑顔で赤丸を抱き
上げて抱え込む。
で、頭をガシガシと撫でておいた。

…生意気だと思われた、か?
ヤバい。ヤケになんてならなきゃよかった…。
後悔先に立たずって、今みたいな時に使うに違いない…。


どうすんだよ、俺。

顔をあげるのが‥怖い。





「ゴメンね。ちょっと頭の整理がついてなかったものだから」
「…ぇ」

笑ってる…?
恐る恐るさんを見上げ…ようとしたら、頭を撫でられた。
いつも俺が赤丸にするそれとは違って、ふわりとしていて優しい。
あー‥なんだかイルカ先生に似てるかもしれない。
普段なら手を弾くところだけれど、さんになら撫でられるのも悪くない。


ワン。(子ども扱い…)
「…っ!」
「あ、ごめん。嫌だった?」
「いや、そうじゃなくて…」

そうだ。
さんは、俺が子どもだから頭を撫でるだなんて真似をするんだ…
子ども扱いは嫌だと思っていたはずなのに、赤丸に言われるまで忘れてた。


…ダメだ。

調子が崩れる。



「キバ君?顔赤いけど大丈夫?」
「子ども扱いするなッ」
「キバ君…」

あー!
もうわけわかんねー!!
さんもさんだッ。
そんな顔するなっつーの!


…っ場の収拾がつかねぇ!!
気持ちの収拾がつかねぇ!!



なら!!!





「っさん!目ぇ閉じて!!」
「??いいけど…」







ちゅっ。










永遠とも思える時間が流れた。
精一杯背伸びしたらなんとかなるかとも思ったけど、やっぱり身長差は埋められなかった。
だから、腕の中の赤丸を放り出して、空いた両手でさんの胸ぐらをたぐり寄せ、唇と唇を合わせた。

初めては不意打ちだった。
二回目は意図的に、俺から仕掛けた。

さんはどんな顔をしているのだろう?
目を瞑っているから見えない。
けれど、口はくっついたままだからきっとすぐそこにさんがいる‥はずだ。
でもなんだか細目開けて確認するのもカッコわりぃ‥
口を話す時に自然と垣間見るしかないか。
てか俺、かなり大胆なことしてるよな。
大胆なことしてるくせに、どっか他人事みたいに感じてる自分がいる…。


…今の俺に、怖いものなんてねえ。
今日まで心ん中で暴れまわっていた感情を、言葉に出して伝えよう。

OKが出たら、めちゃくちゃ嬉しいし。
ダメでもすっきりするし。




「…俺、さんが好きだ」

しっかりと目を見て、伝えた。
真実だと伝わるように、もう一度背伸びしてキスをした。


「結婚して下さい」



本日最高潮に真っ赤なさんに、素直な気持ちを打ち明けた。


‥キバ君までっ!お、男同士じゃ結婚出来ないんだよ!!?」
「それくらい知ってる。けれど、俺は本気だ」

てか俺“まで”ってことは‥他にもさんのことが好きって奴がい たってことか。
誰だ?
ナルト――‥はないか。
あいつは恋愛感情どうのこうのというよりは、さんを慕ってるって感じだったし。
…もしかして、さんが口を擦りながら赤い顔して走ってきたのって、誰かに告白されてしかもキスまでされたから?

だとしたら、そいつ 最低だ。
さんを泣かせるなんて。


イライラする。

俺が強かったら、大人だったら、さんを守ってあげられるのに…





「俺、今は弱いけど…いっぱい鍛えて、里で一番強くなって、立派な忍者になってやる。
で、さんと結婚する。誰にも文句は言わせない。…もちろん、さんが嫌じゃなかったらだけど」

ダメですか?と、上目使いでさんを見上げる。
(姉貴が言ってた。これで年上は落とせると。たまには役に立て…!)




「‥やっぱりダメで「キバ君可愛い!!」




…え?

いきなり抱きつかれちゃったよ、俺。



「な、さん?」
「可愛いなーキバ君!!ナルトも可愛いけどキバ君も可愛い。あ。でも簡単に結婚だとか好きだとか言っちゃだめだよ?
それはホントに好きな人に対して言わなきゃ!キスなんてもっての他だし!」

好きな人の腕の中。
これは嬉しいっちゃー嬉しい状態ではあるけども…なんか内心複雑だ。
‥このままいったらぜってぇ冗談だったで済まされちまう。
そう簡単に流されるわけにはいかない。
ちゃんと答えをもらわないと!


「――うだんとして、うちのことなんて忘れちゃった方がいいと思うよ、うん。で普通の女の子を好きになって幸せなけ「俺が好きなのはさんだけだっての!」
「…今までの説明聞いてた?」

大きく首を縦に振る。

「……っはぁー……」


頭を抱え込むさん。



「‥俺は君と結婚することは出来ない」


あーやっぱり。
そう言うと思った。
口を開く前から、なんとなくわかってた。

‥初恋は実らないって、ホントだな。
結果はわかっていた。でも、やっぱり、辛い。





さん…家に帰る前に‥最後に2つだけ、聞いてもいいか?」
「俺に答えられる範囲であれば」

さんは俺のことが、嫌い?」
「いや。むしろ好きだよ」

「じゃぁ俺と結婚できないのは、俺もさんも男だから?」
「‥そうだね」



…余計にたちがわるいと思った。
嫌いと言ってくれた方が清々するというのに、この人は俺のことが好きだという。
性別が同じ者同士で結婚は出来ないと、誰が決めたんだか…
神か?火影か?どちらにしても都合の悪いことをしてくれたもんだぜ。
どうしてくれようこの気持ち。
‥諦めきれないじゃんか。







「…しばらくは引きずっちまいそうだなー」






さんと別れた後、震えた声で一人呟いた。
















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【あとがき】
エンディングだけ書き終えてしまい…
それがかなり気に入っているものだから、早くそれをupしたいがために猛スピードで書き上げました。。。
…案の定、気に入らz(ry

赤丸君はキスするご主人様を人の目から遠ざけようと通行人を追っ払っていたためいませんでしたという設定です。
(だって邪魔じゃないですか(笑顔))

それにしても…
やはりシナリオ通りにはいかないものです。
ですがシナリオ通りにいかないからこと人生は面s(略


…キバも小さな頃はママとか呼んでたのかなー