自分のことが、嫌になる。
Dent De Lion
火影様の屋敷の前にいた。
ナルトを背負って、血を吐いてからの記憶を一切持たずに。
呆然としている中、ただ、何かの獣のお面を被った男が「必ず助ける」と言ってナルトを連れて行ったことだけは覚えている。
それから他の忍者に促されるがまま廊下を歩き、何も考えていないうちに立派な扉の前に連れてこられた。
ナルトは大丈夫だろうか。
かなりひどい怪我だった。
気を失っているにも関わらず、苦痛に顔を歪め、呼吸も荒くて…
あぁ、なぜもっと早くに駆けつけてやれなかったのか。
馬鹿。馬鹿。馬鹿。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!
カチャッ。
「をお連れしました」
「うむ。下がっていいぞ」
扉の奥には部屋があり、頭に【火】と書かれた変わった形の帽子を被っているご老体がいた。
どうやら火影様ご本人と対面させられたらしい。
…どこか見覚えのある顔だ。
じいーっと凝視していると、そのうち火影様は自分の名前を述べ、椅子に座るように促した。
おずおずと席に着く。
思い出そうとすればするほど、記憶は砂のようにサラサラと溢れていってしまう。
「…あの、失礼ですが以前どこかでお会いしたことが?」
沈黙と葛藤に耐えられなくなり口を開いた質問は、意味ありげな笑顔でかわされてしまった。
やっぱりどこかで会ったことがあるんだ。
「、と呼ぶがいいかの?」
「は、はい」
そう固くなるな。とニコリと笑って話す火影様。
そんなこと言われても緊張してしまうのは仕方のない事だろう。
よくわからないご老体だよ、ホント。
外見はどこにでもいるような優しいおじいさんって感じなのに、どこか気を抜けない…。
隙がないんだこの人には。
里の長としての威厳がある。
柔らかい雰囲気を持ちつつ、それでいて凛としている。
「…君のことは色々聞いておる」
いい意味でだろうか、悪い意味でだろうか。
前者であることを祈ろう。
「ナルトは素直で明るい いい子じゃ。わしはナルトのことを我が子のように思うておる」
「…えぇ。それは重々承知しております」
「ふふ。そうじゃな、ナルトが一番近くにいることを許した君だ。そうでなくては困る。
今回君をここに連れてきてもらったのは…
ナルトの…―――ナルトの中にいるものについて話すためじゃ」
「…なか?」
「そうじゃ。ナルトはそれを飼っているがために…先ほどのような仕打ちを受けるようになってしまったのだ」
無知というものは疎ましい。
…知っておくべきだ。
あそこまでさせるほど、大人達をかりたたせているものは何なのか。
その理由がわかるというなら、話を聞こう。
「これより先は他言無用。里でも禁句とされ、口に出すことは決して許されない」
それほどまでに隠すことって?
ナルトって…いったい…―――
「嘘…でしょ」
九尾という化け物を体内で飼うことを余儀なくされたナルト。
その九尾が里を崩壊寸前まで追い込んだ。
ただ、それだけの理由で里の人間に迫害されるようになってしまったナルト。
話を聞く限り、ナルトは何も悪くない。
悪くないのに‥身に覚えのないことなのに里の人間に邪険に扱われていたなんて…――
「ひどい…」
涙が出た。
自分の事じゃないのに、泣かずにはいられなかった。
今までどれだけの仕打ちを受けてきたのだろう。
だれにも相談できず、けれども毎日を生きて…
いつも元気に明るく振舞って…
つらいのに、無理してたんじゃないだろうか。
痣や視線をどこかおかしいと感じながらも軽視していた。
気付けなかったんじゃなく、気付こうとしなかった。
本当に馬鹿だ。自分が嫌になる。
「っでも…なぜナルトに護衛をつけなかったのですか」
「つけてはいたんじゃが…いや、今となっては言い訳になってしまうのぅ」
すまない…。
そう言って、こちらを見た目は…本当に申し訳なさそうで、心なしか潤んで見えて。
そんな目で見てほしいわけじゃなかった。
そんな目で見てほしくなかった。
これじゃ…何もいえなくなってしまうじゃないか。
「……っ…」
「、泣かんでおくれ。君が泣くことはないんじゃよ」
泣くのをやめようとすればするほど涙は溢れてくる。
優しい言葉はいらない。
その言葉はうちに向けられるべきものじゃない。
泣きたくないのに…本当に泣きたいのはナルトの方なのに…!
あ、ちょっと待って。
その九尾の狐が原因なら…
「その狐を…ナルトの身体から、追い出してしまえば…いいっ」
「それはできん」
「っどうして!!里の人々が疎ましく思っているのはその【化け物】だ!
【化け物】がナルトの身体から出て行けば【ナルト】は迫害される要因がなくなるじゃないかっ」
筋は通っているはずだ。
化け物を殺すか、逃がすか。
ナルトの身体から【九尾】という存在がなくなるだけでいい。
それだけでナルトは偏見の目で見られることがなくなるんだ。
悪いことなんてないじゃないか!
「わしらもできることならそうしてやりたい」
「…九尾が逃げれば収拾がつかなくなるからですか」
「そうではない」
「じゃあ!」
どうして…―――
コンコン。
「入れ」
「…失礼します。火影様、うずまきナルトが意識を取り戻しました」
「っそこに連れてって!」
「……連れて行ってやれ」
「御意」
忍者の後ろについていく。
部屋を出る際に、火影様に一礼してから。
顔を流れていた涙も止まった。
涙が流れた後がナルトにバレないように、袖でごしごし擦った。
泣いたから目が真っ赤になっているかもしれない。
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【あとがき】
狐や狸なんかの尾獣(?)をその人物から引き剥がそうとした場合、
人柱力は死んでしまうそうですね。
(こないだNARUTO大好き人間から我愛羅が死んでどうのこう
の…という話を聞きました。私は木の葉崩しあたりまでしか漫画を読んでいないので…orz)
だからきっと火影様は封印を解いてやれずにいたんでしょう。
ナルトが邪険に扱われていても、表立って助けてやる事も出来ず…
この人はこの人で辛かったんじゃないかなぁ?なんて妄想を膨らまし
ていました。
え、あれ?これ火ナルとかいう新しいカッp(強制終了
ちなみに護衛の件ですが、数話前に出てきた猿が護衛担当だったんだ
けれど、
この人も九尾に恨みを持っていたため任務を放棄したり、暴力を受け
ているのをただ見ているだけだった…というどうでもいい設定があったりしました。
説明するのも書くのも面倒だってのできっと読む人たちはもっと面倒
だろうな…
と思いまして、話の中では省略してあります。
(実は私刑されている時にカカシが後をつけていた…っていう話を書
きかけていたんだけどね)