女の子だなんて想定外だ。







Dent De Lion





「…君だったんだね」
「ッ!?」

後ろから声をかけると、ビクッと大きく肩が揺れた。
首を竦めながら振り返ったその顔は、やっぱり見知った女の子で…

「日向ちゃん…だっけ」
「………」
「ちょっと一緒に歩こうか」
「‥わかりました」


パーティーに来たときにジュースひっくり返して謝りにきてたから印象に残ってた。
けれど、もしも彼女がジュースをこぼしていなかったら、うちは彼女の存在に気付いてなかっただろう。
この子はそれくらい印象に残らないような、目立たない女の子なのだ。

…で、問題はそんな物静かな女の子がなんでうちに嫌がらせをしかけたのか だけど。

この子に嫌われるようなことをした覚えはない。
気にくわないことをした覚えもなければ、嫌がらせを受ける筋合いもない。
でも現にうちは嫌がらせを受けていた。
その理由を問わないと。







「はいどうぞ」
「…ありがとうございます」

笑顔でその辺で買ってきたジュースを手渡し、公園のベンチに座っている日向ちゃんの隣に腰掛けた。
さてさてどうしたものか。
これが大人だったら問い詰めてやったけれど、相手は子ども。
しかも女の子ときた。
女の子を泣かせたくはないし…まぁうちにそこまで力があるわけじゃないが。
どうするかなぁー。


「…最近俺に嫌がらせしてたのって日向ちゃんだよね」
「………はい」

あっさり認めちゃったよ…。
潔いのはいいことだね。うん。
ならばこちらも単刀直入に。
元々回りくどいのは得意じゃないし。

「なんでそんなことしてたのかな?」
「………」

そうか。今度は答えてくれないか。
しかも顔を反らすだなんてわかりやすいリアクションつき。
う〜ん。お兄さん悲しいよ…
いらつきとため息を押し込めるためにジュースを一気に飲み干した。


「俺、日向ちゃんに何かしたかな?」
「………」
「もしもそうだとしたら、俺は謝りたい」
「………」

相づちも何もない。
隣にちゃんと人がいるのに、反応が何もないなんて。
なんだか独り言を言ってるみたいで、少し虚しくなった。

「………」
「けれど、何に対して怒っているのか言ってくれな「あなたは…」 ん?」



「あなた、女の人でしょ?」



「!?」


バレ、た?
いや…でもまさか。
こんな女の子に?
今まで精一杯、ボロを出さないように努めてきた。
口調だって男っぽくしていたし、胸だってサラシまで巻いて隠していた。
一番近くにいたナルトさえ気付かなかったというのに…
なのに何故わかってしまったんだろう?
‥ハッタリか何か?

「…なんで、そう思うんだい?」

声が震えた。
これじゃ、女です!と言ってるようなものじゃないか。
いやだ‥どうしよう!
バレるなんて冗談じゃない。
言いふらされればきっとここにいられなくやる。居場所がなくなる。出ていかなくちゃならなくなる…!

「…私が白眼を使ったときに、見てしまったから」
「ビャクガンね………



そう。そっか。で?」
「え?」
「うちが女だと知って、なぜ嫌がらせを?追い出そうとでも?これからどうするつもり?」

目の前の少女は怯えている。
目を大きく見開いて。
うちの豹変ぶりに驚いているんだろうか?
それとも今のうちはそんなに恐い顔を?
…どちらでもいい。
この子はうちが女だと知ってしまったのだから、優しいお兄さんでいても疲れるだけだし。
それにこっちは切羽詰まっているのだから。
女の子を怖がらせるなんて!とが知ったら怒りそうだけど、幸いこの世界にはいない。
…変化の術だけじゃなくて、他の忍術も覚えたかったな。
たとえば記憶を消したりできる忍術とか。
そしたら忘れさせて、全てを丸く納められたのに。



「で、なんでなのかな日向ちゃん」
「わた、私はただ……」
「ただ何?」

「ただ…隠し事をしている 嘘をついてる人が、ナルト君の側にいるのを許せなかったの」



隠し事。

嘘つき。

…ごもっとも。



「でも日向ちゃんには関係ないんじゃない?」
「っそんなこと!……ない
「ふぅん?」
「だってさんは嘘つきなのに!ナルト君ったらさんと一緒だとすっごく嬉しそうな顏しちゃって。その笑顔が今までに見たことがないくらい素敵だった から私、私…ッ」



見ていて、わかってしまった。

ただの友達なら 何も思わないだろう。
ただの友達なら 黙って見過ごすだろう。
けれど、この子は行動を起こした。


…ナルトのことが好きなんだ。


今回の嫌がらせはきっと、ナルトを心配する気持ちとうちに対するやきもちが生んだものだったんだ。
まだ幼い彼女は、恋をしているなんて自覚はないのだろう。
ただ純粋にナルトのことが好きなんだ。





「…いいなぁナルトは」
「え?」
兄ちゃん呼んだ?」
「ナルト!」「ナルト君!?」
「ふたりともこんな所で何やってるんだってばよ」

驚いた。
振り返ればすぐそこに、ニコニコ笑ったナルトの顏があったのだから。
日向ちゃんも気付いていなかったらしく同じようにして驚いていた。
それから前に向き直って、もじもじしながら下向いちゃったけど…素直でいいね。可愛いや。
ナルトにはさっきの話は聞かれていないみたいだ。
…よかった。本当に。

「ちょっと大切な話をしてたんだよ」
「大切な話って?」
「それは秘密。ね、日向ちゃん?」
「ぁ、はい…」
「えー!オレにも教えてほしいってば「いけね!ご飯まだ炊いてなかった。もう暗いからナルト日向ちゃん送ってってあげな。俺は先に 帰って準備してるから」
私は一人で帰れるか「ナルト、男でしょ。必ず送ってってやりな よ」
「仕方ないなぁ‥了解だってばよ!」


何か言いたそうにしている日向ちゃんをおいて、うちは家へと歩き出した。
…もしもあの子がバラしてしまったら、その時はこの居場所を捨てよう。
純粋なこの子を見ていたらそんな気持ちになっていた。
















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