いやぁ賑やか賑やか。あっはっは…







Dent De Lion





小さい頃、家に友達を呼ぶのって、めちゃめちゃわくわくした。
だからナルトから友達をたくさん連れてくるって話を聞いて、気合いを入れて準備をした。
前日も含めてバイト休んで、念入りに掃除して、時間が余ったからお菓子なんかも作っちゃったりして。



でも…


「うげっっ」
「ぎゃあ!」
「早くコップ起こして!」
「ボリッ。ボリッ。ボリッ。ボリッ」
「いやチョウジ。お前こんなときくらい食うのやめろって」
「あ。こぼれた」
「拾うな食うな!」
「ティッシュどこですかぁ」

「はいはい今持ってくからね」

うん…まぁいいけどね。
床が汚れようが、ジュースをひっくり返されようが、後で掃除をすればいいだけのことだから。
楽しんでくれれば問題ない。
気合い入れて作ったお菓子も‥床に落ちたものまで猛烈な勢いで食べてくれる子がいるしさ。
そこまでしなくてもいいのになぁと思う反面、そうまでして食べて貰えて嬉しいと思う。
お菓子は専門範囲外だったんだけど頑張って作った甲斐があったわ。

「あの…すみませんでした」
「大丈夫だよ。気にしないでね」

ジュースをひっくり返した子に頭を下げられる。
拭けばいいだけのことだからそんなに深々と頭を下げることないのに…。
礼儀正しくていい子だ。
名前は確か…山中いのちゃんだったかな?
なんだか今にも泣き出しそうな感じだったので、冷凍庫に冷やしておいたアイスをみんなに内緒でその子にだけ渡した。

「どう?」
「…おいしいです」
「そう。よかった」

顔が少し赤いから、きっと元々今日は体調が優れなかったんだろう。
そんな中わざわざ遊びに来てくれたんだからこれくらい贔屓にしても問題ないよね。
念のために、それはいのちゃんの分しかないからみんなには内緒にしといてね。
と付け加えるとこくりと頷いてくれた。
素直でよろしい。
気にしないでいいよ。という意味を込めて、ぽんぽん と頭に手をのせてやった。
やっぱ泣きそうな子どもにはアイスだ。アイス。
まだちょこっと寒いけど、こんな時季に食べるアイスも悪くはないだろう。





兄ちゃんも参加するってばよ!」
「え?いいの?」

使い終わった食器をそのままにしておくのは嫌だったけど、せっかくお呼ばれしたんだから参加しよう。と引っ張られるがままに席に着いた。
テーブルの上に出ていたのはトランプ。
トランプと聞いて閃くゲームなんて大富豪とババヌキくらいしかない。

「これから何するの?」
「へっへ〜…ババヌキだってばよ!」

あ。ババヌキだからいのは参加不可ね!
と一言余計なナルトはいのちゃんからゲンコを一個もらっていた。
それでも前回よりいくぶん弱くなっている気がしたのはきっと気のせいじゃないだろう。
いのちゃんいい子だねぇ…お兄さん嬉しいよ。

さん?」
「あ、ゴメン。さてババヌキかぁ…年下だからって手は抜かないからね」
「「「「「「「えー」」」」」」」


まぁ空気を読んで、負ける時にはちゃんと負けるけどね。
これでも彼らの倍近くは生きてるわけだから、ちゃんと大人らしく接さないと。
勝敗なんてどうでもいいし。
トランプをきり、平等に配る。





「うぐ」



「あ…」



「………」




やってみて、わかった。
…ナルトのやつ、全部顔に出てるんだよな。
ババを引けば 渋い顔をして。
相手がババに手を伸ばしたら 途端に嬉しそうになって。

素直なことはいいことだけど…いくらなんでも素直すぎだ。
まぁそんなところも可愛いけどね。



「…だめだなぁ」


ナルトのことを他人と思えなくなってきている。
これじゃ別れるとき辛くなるに決まってるのに。





んあーー!!また負けたぁ!」
きゃあ!
ぱしゃっ。

頭に液体が降りかかった。
髪を濡らし、額を伝う感覚によって現実に引き戻される。
そうだ。今はまだ…そんなことを考える必要はない。

「おいおいナルト!」
「何してるのよ日向!」
「わ、わたし…」
「わわわ!ゴメン兄ちゃん!今タオル持ってくるから」
「平気平気。自分でそれくらいできるから。ただ次からは気を付けるんだよ?」
「…うん」

他の子にも気にしないように言ってから、タオルと服を一着持って風呂場へ急いだ。
髪の毛がくっついてベタベタする。
水ならまだましだったが、頭にかかったのはジュースだったみたいだ。
しかもブドウジュース…服についたシミは落ちないことを覚悟した方がいいかもしれない。
もったいない…が、仕方ない。


コンコン。
「あ、あの…」

控え目に叩かれた扉。
続いて聞こえてきた声。
ガラガラッと扉を開けると、さっき隣に座っていた女の子が下を向いて立っていた。
喋っていても、決して目を合わせようとしないちょっと内気な子。
目の色が白くて最初見たときには面喰らった。
そういえばこの子がジュースをこぼしちゃったんだっけ?
もしかして気にしちゃってるのかな?

「君もお洋服にジュースかかっちゃったのかな?」
「い、いえ」
「そっか。俺のことは何も心配することなんてないから大丈夫。他の子達と一緒にいていいよ」
「あ、の‥でも服を濡らしてしまったし………包帯?」
「!?」

少し開いた胸元から、念のために巻いていたサラシが見えてしまったらしい。

「ど、どうしよう…。私怪我してる人にジュースなんかかけちゃって」
「いやホントなんでもないんだよ。君のせいじゃないし、気にするほどのことでもからさ」
「で、でも、もし切傷だったりしたら大変……!」


そう言うや否やこの子の目が変わった。

「え?」


いけない。
この子の目は危険だ。


「さぁ向こうに行っててくれるかい?早く頭を乾かさないと風邪をひいてしまうからね」
「え?え?」

ピシャリと扉を閉めた。




バレるわけにはいかないんだ。
うちはまだここにいたい。
居場所を失うくらいなら、ついたを貫き通す。





兄ちゃんまだかってばよー?」
「…あぁ、今行くよ」

短い髪の毛を拭いて、ザッと水分を飛ばす。
なんてつかなければよかった…なんて、今更何を思ってるんだか。
がなければ側にいることさえできなかったかもしれないのに。
居場所を与えてくれたのは、紛れもなくそのだったというのに ――‥


「今のうちは 兄ちゃん。女子高生のは―――…いない」



ナルトの望む優しい兄ちゃん?

さぁ扉を開けたなら、自分を殺して自分を作れ。
















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【あとがき】
いくら男っぽくてもやっぱり女の子なんだから、ずっと自分に嘘をつき続けるのは辛いんだよってお話。
さてさてお膳立てはできました。
次からは背後にお気をつけください(ぇ