リアルな夢があるように、
夢のような現実もある。
Dent De Lion
「…戻った?」
まさかとは思うけれど、だってここはどう見ても病院の一室だ。
うちはナルトの家にいたはずなのにこんな場所にいるなんて、戻ったとしか考えられない。
点滴に繋がれた自分。
個室なのか、人の姿はない。
なぜ点滴に繋がれているのかはわからないけれど、元に戻れたなら喜ぶしかない。
日本に帰れた。もうすぐ家に帰れる!
はもうすでに旅行から帰ってきているのだろうか?
だとしたらまず最初に一発殴ってそれから…あぁ、でもの顔を見たらきっと何も言えなくなっちゃうな。
忍びの里に放り込まれたと知った時には間違いなく死ぬと思ったけれど、死なないで今まで生きてきた自分を少しくらい誉めてやりたい。
あまり人と接することのない、今までとさして変わらない生活だったとはいえ、文化の違いにもへこたれずよく頑張ったよ…
クナイやら手裏剣やら刀やら刃物が普通に売られていて少しばかり危ない所だったけど、里の人がみんないい人ばかりで…現代ではあまり見られない光景とかも
かなり見れたし。
(井戸端会議とかさ)
「…もう少し、喋っておけばよかったかな?」
離れて初めてよくわかる。
名前も知らないけれど、優しくしてくれたおばさん。
店の店員さん。偶然出会った女の人。
…引っ込み思案になんてならないで、もっと自分から話しかければよかった。
そしたら、こんなむなしい気持ちにはならなかっただろうに。
でも後悔したって仕方ない。
あぁ、でも楽しかったな
だって帰ってきてしまったのだから。
何も言えずにごめんねナルト
長い夢を見たと思って―――‥忘れよう。
お前は本当の弟のように可愛かったよ
他の全てを忘れても、ナルトのことだけは絶対に忘れないから
「…変わろうと思っても、そう簡単に変われるものではないし」
口では何とでも言える。
けれど、行動に移すのはまた別の話だ。
ベッドから降りる。
床に足を着くと、ひんやりとした感覚が伝わってきた。
スリッパを探すが、どうやら置いてないらしい。
仕方なく、素足のまま歩いていく。
少し立ちくらみがしたので、時たま立ち止まりながら、当てもなく院内をうろつく。
なんだかどこか古臭い。
木で出来ているなんて近所の病院ではないことだけは確かだ。
木の葉の里で過ごしていた期間中、うちはどうしていたことになるんだろう?
の時のように行方不明者扱い?
けれど、病院で寝ていたということは…あれかな、植物状態。
「…どちらにしても望ましくないな」
どっちも嫌だけど、まぁ‥どうでもいい。
少し夜風に当たるとしよう。
そしたらこのまとまらない思考も少しはよくなるに違いない。
ギィー…―――
「…なぜここに……?」
「え?」
持たれかかるようにして屋上のドアを開けると、一人の男が立っていた。
今までに会ったことのない人だと思う。
空が蔭っているせいでよく見えないけれど、こんなに静かで――そして鋭い雰囲気を持った人物には未だかつて遭遇したことなんてなかったから。
黒髪に、黒い目。
時折黒い目が紅く輝いて見える。
「血が…」
その目からは血が流れていた。
赤黒い跡が涙のように頬を伝い、泣いているように見える。
額から血が出ているわけではない。
頭から血が流れ出たわけでもない。
本当に目から血が流れているんだ。
よくよく見ると、身体のあちこちに傷があった。
傷の浅いものから深いものまで程度は様々だが、その白い肌を伝う血の量は相当なもので…
「っい、医者を…」
「必要ない」
「…ッ……」
目を合わせるだけで圧倒された。
息が詰まる。
怖い。
これは夢なんだろうか?
でも、もしそうだとしたら納得できる。
木造の病院に、まとまらない思考。
覚束ない足取りに、血塗れた謎の男。
夢なんだ。
日本に帰れたことも、この空間も、全部夢なんだ。
「ハハ‥笑っちゃうな」
夢だとわかった途端、何も怖くなくなった。
怖くないはずがないのに。
危険が身に迫っているというのに。
男が足音もなく近づいてきても、夢だと割り切ってさえしまえば恐怖心は薄れていく。
一歩、また一歩。
距離が間近になるにつれ、(夜目が利いてきたこともあり)相手の姿がはっきりと見てとれた。
…綺麗だ。
この人間を作り上げた自分の想像力を褒めてやりたい。
それほどまでに、この男は完璧な容姿をしていた。
身体を伝う血は白い腕に映え、まるでそれさえも彫刻であるかのように美しい。
「恐怖を感じないのか」
「そんなの…感じるに決まってます。誰にだって怖いと思うことはある」
背の高い彼を、見上げるような形で答えた。
…でも目の前の人物からは、恐怖というものは感じない。
夢だからと割り切ってしまったせいもあるが、理由はそれだけではない。
心の何処かで平気だと、何かが訴えかけてくるんだ。
この男は危なくない、恐る必要はない、と。
「……ッ…」
「ぁ、ちょっ!」
ドサッ。
ガシャンと音を立てて、点滴を吊るしていた台が倒れた。
…苦しい。
さすがに大人の男にのしかかられては、ひとたまりもなかった。
しかも思うように動かない身体なのだからなおのこと。
首に顔が埋められているので、起き上がるにも起き上がれないし。
…困ったな。相手は怪我人だから突き飛ばすこともできない。
「…大丈夫ですか?」
「…あぁ」
すまない。
そう言って起き上がろうとするが、ふらっとしてまた倒れこんできてしまう。
耳元で歯を食いしばるような音が聞こえた。
…駄目そうだな。
まぁ、あれだけ大量に出血していたんだ。
仕方ない。付き合ってやろう。
自由になっている手で点滴を抜いて、長期戦に備えた。
ずいぶんリアルな夢だな、という疑問が頭の片隅に浮かんできたが、深くは考えないでおいた。
そもそもどうしてこんな目に合っているのか…
なら「鼻血でる〜!!」とかほざきながら喜んだかもしれないけれど、あいにくうちはこういうシチュエーションは好きじゃない。
例え夢だとしても…夢?
夢って、自分が本当に望んでいるものを映し出すんじゃなかったっけ?
…駄目だ駄目だ駄目だ。深く考えるな自分。
「一応聞いておきますけど…死なないですよね?」
「…あぁ。少し休めば持ち直す」
ならその少しを頼りにして、この状態で耐えるとしよう。
「…女、なのか?」
「え、まぁそうですが…」
「お前は――…違うのか?」
「はい?」
違うなんていきなり言われても…
何が違うというのだろう。
ていうか今頃女だと気付いたんだ?
もっと早くに胸の出っ張りとかで気付いてほしかったりしたんだけどな…
「っそこの面に見覚えは?」
そこってどこ?とキョロキョロ左右を見回すと、点滴の脇に隠れるようにして確かにお面が転がっていた。
何かの動物をモチーフにしているのであろうその面に、もちろん見覚えなんてものはなく…
「ないんだな?」
「…はい」
「……そうか」
男は起き上がる。
今度はしっかりとした足取りで。
興味を失ったかのように、先ほどよりも曇った瞳をして。
…気にくわない。
なんでそんな目で見られなければならないんだ。
「こちらからも質問していいですか」
「なんだ?」
「…なんでそんな目になったんですか」
「任務と修行で酷使し過ぎたためだ」
そういうことを聞いたのではないんだけれとも…
天然?
この容姿で、天然?
…ありえない。きっとうちの聞き方が悪かったんだ。
「えーっと、その目でこちらを見られるのが嫌だから前の目に戻ってほしいなぁという意味で尋ねたんですが…」
「…そうか」
後ろをクルッと向く男。
難しいなこいつ。
また聞き方を間違えたんだろうけど、言葉って難しい。
面倒だし…まぁ、とりあえず……いっか!
「じゃぁそろそろ戻るので」
「…一つだけ、いいか?」
「?あー…どうぞ」
意識が途切れ途切れになってきた。
眠りの中で眠りにつく時間が来たようだ。
「―力を得るためなら、ほ―――べ――犠牲―――――が――――?」
ん?
途中からほとんど聞き取れなくなっちゃったけど。
今なんて…?
「――…どちらだ?」
「いや、そんなこと言われても…」
「お前だったら、どちらを選ぶ?」
「いや、だからどちらっていわれても」
「………」
答えを待たれても困る。
質問の時には聞こえなかったのに、こんな時にだけ聞こえるなんて酷いと思わない?
肝心な時に聞こえないなんて…うちの耳、終わってるね。
耳鳴りがしてきた。
そろそろ夢から本当に覚めるのかもしれない。
…はっきりした夢だったな。
その姿を目に焼き付けておこう。
もう二度と、見ることのない顔だろうから。
「――い。おい!」
綺麗な顔が目の前に。
どうやら倒れたうちを支えてくれたらしい…。
意外と優しいんだね、さっきまでは立つこともままならなかったというのに体力もあるとみた。
「回答ですけど…自分が思うとおりにしたらどうですか?」
眠い。
眠い。
眠い。
もう意識を手放してしまおう。
「…っ――の、なまえ――?」
なまえ?
うちの名前は―――…
「…う……」
「あ!兄ちゃん起きた!?」
「ナルト?」
ポワポワの黄色い頭。
間違いない。
…やっぱり夢だったのか。
ニホンに帰れたと思ってぬか喜びしちゃった自分が恥ずかしい…。
「兄ちゃん昨日熱出て倒れててやばかったんだってばよ?」
「熱?」
「そう、熱」
熱?
そういえばうち、病院にいて点滴打っていた気がするんだけど…記憶が定かではない。
まぁ夢の中の出来事だし。
偶然ってあるものなんだね。
「俺ってば心配で心配で…へっくしょい!」
「え、ちょっと。ナルト顔赤いんじゃない?おでこ出してみて」
素直に従うナルトのおでこに手を当てる。
………だめだこりゃ。
「熱があるね」
「げっ。」
「今日はアカデミーお休みしましょ」
「えー!!」
リアルな夢があるように、
夢のような現実もある。
どちらがどちらか決まってない。
ただその人が決めるだけ。
Backl
Next
【あとがき】
以前お客様から情報提供してもらったので、せっかくだから書いてみよう!
と、絡ませるつもりのなかったキャラと絡ませた結果、自分が絡まりました。
人間勢いで行っちゃダメね、ホント…。計画性が大切よ。ゲフン。ゲフン。ゴホッ・・・orz(吐血