犯罪は身近な所で起こったりします。
皆さん、気を付けて下さい。
…なんて言ってる場合じゃない!







Dent De Lion





街中を早足で歩く。
できるだけ人が多い道を選んで、人の波に紛れて。
後ろは一切振り向かない。
振り返ったそこにさっきの銀髪の男がいたら…ホラー並に怖いもん。


「あ…でもなんで名前知ってたんだろ?」

この里にきてから名前を教えた人なんて片手で数えられるほどしかいない。
ナルトに、犬塚君に、サクラちゃんと山中さん、それにおばさんだけだ。
(あ、サクラちゃんたちと一緒にいた子達も入れたら片手じゃ収まらないか)

口元をマスクで覆い、片目は額当てで隠していた男。
顔の半分以上をなぜ隠す必要があったのか。
いくらなんでも怪しすぎだろ…
でも、その怪しい男に名前を知られてた‥んだよな。
…失敗した。
それとなく聞いておけばよかったわ。




「きゃーーー!」
「!?」

先のほうで響いた悲鳴。
目を凝らすと、人の波に逆流してこちらに走ってくる男が見えた。
相当焦っているらしく、人に当たろうが何しようが目の前にあるものは全てなぎ払っている。
格好からして一般人っぽい‥。
そういえば昔、が引ったくり犯を追いかけまわして捕まえて、警察から感謝状を貰ったことがあったっけ。
おばあさんがくれたお礼のせんべいが絶品だったからあげると言って、一枚うちにくれた
懐かしいなァ。


「誰かそいつを捕まえて!」
「止めろー!」
「ひったくり犯だ!!」

巻き込まれるわけにもいかないので(それになんだか危なさそうだし)店の軒先に非難する。
忍者がいる里でひったくりをする命知らずなやつがいるらしい。
どこの世でも似通ったものだね、うん。
そもそもこの世界に警察というものはいないのだろうか。
これだけ騒いでるんだから、警察官の1人や2人出てきてもよさそうなのに…
でも…忍者の警察かぁ。
どんな警察なんだろうなぁー。
やっぱり忍術使って逮捕とかするんだろうか?

…てか、え?
こっちに真っ直ぐつっこんで来るんだけど…!



「っ何すん「それ以上近づくな!!」

いきなり腕をつかまれたかと思ったら、なんと刃物を突きつけられた。
刃渡り8cmほどの小ぶりなものだが、それでも急所に刺されたりしたら切り傷程度じゃすまない…
‥確かに周りには筋肉モリモリの屈強な男たちしかいなかったけど。
元々は女だからひ弱な少年に見えたかも知れないけど。
けど、けどさ…隣にもっと細くて弱そうな女の人がいたじゃん!
よりにもよってなんでうちを選ぶんだよ…!


「お、落ちついて「うるさい!近づくなって言ってんだろうが」

興奮しているひったくり犯。
それに対してやけに落ち着いている自分。
追いかけてきた人たちは、人質を取られているので動くに動けない。
ごめんなさい皆さん。
うちのせいでこいつのこと捕まえられないんだよね‥。
きっとこれが自分じゃない他の誰かなら、心配だ!とハラハラして見守っていただろう。
…同時に【ショッキングピンクのハンドバック片手に人質をとる犯人】という絵を見て内心大爆笑していたかもしれないけどさ。
とりあえず耐えろ…耐えろ自分……警察がくるまでの、もうちょっとの辛抱だ。



交渉は進んでいく。
けれどもいつまで経っても警察は来ない。
突きつけられた刃物との距離はどんどん詰められてきていると言うのに…!


…それにしてもこいつは息を切らしすぎだと思う。
ハァハァハァハァと…全力疾走してきたのはわかるが、その息が耳にかかって気持ち悪いことこの上ない。
それにしても今日は厄日なんだろうか?
変なやつらに絡まれて…こんなことなら部屋に閉じこもってればよかった。

‥もしかしてこの男はさっきの銀髪男の仲間だったりして?


「…におうな」
「なっ!なんだとっ!!」
「や、あんたのことじゃなくて…っ」

拘束する力が強くなる。
逃げようともがくが、びくともしない。
く、くるしい…

悲しきことかな…男と女の力の差というものはそう感嘆には覆せないのだ。





その時、首筋がチクリと痛んだ。



「っ!」




身体がビクリと跳ね、目の前が一瞬 真っ白になる。



次に視界が元に戻った時にはひったくり犯の男は地面に伏していた。




何が起こったのか、瞬時に理解できなかった。
「取り押さえろ」という男の声を合図に、マッチョな男たちがひったくり犯を捕まえる。
引ったくり犯は気を失っているらしく、何の抵抗もしなかった。
「大丈夫?」と心配そうに女性に聞かれたので大丈夫だと答えたけれど、内心大丈夫じゃなかった。
あの一瞬で、何が起こった?
この男を倒したのは…誰?


「君凄かったなぁ!かなり青春して体術を極めているとみた」
「え…何のことですか?」

そう尋ねると、不思議な顔をされてしまった。

「何って、君がそこの男を叩きのめしたことだが?」

かなり青春して努力を積んできたんだろう?と続ける忍者のベストを着た男。
どうやらひったくり犯は警察でも他の誰でもなくて、うちが倒した…らしい。
嘘だろ?と聞き返したら、何馬鹿なことを言ってるんだと笑われた。
どうやらこの男が言うには、騒ぎを聞きつけて助けようとしたその時に、うちがこの男を倒してしまったということだった。
…そんな力は持っていない。
それどころか、倒した記憶さえないというのに。

なんだか、恐ろしい…。



「そうか!じゃあ君は忍ではないんだな?」
「あ、えぇまぁ…」

ぼーっとしながらも返事を返していたみたいで、うちは男とまだ喋っていた。
後から来た警察みたいな人達に犯人は連行され、人だかりもなくなってきたというのに、いい加減離してくれないだろうか。
…面と向かって顔を見てみると、この人……ありえないくらい眉毛が太い。
バブル全盛期でもこんな人はいなかっただろう。
【こ●かめ】両○●吉もびっくりな太さだ。
しかもおかっぱ…
生まれてこのかたブラウン管を通してしか見たことのないようなおかっぱ…


「―――だろ!!」
「…はい?ごめんなさい話を聞「なんと素晴らしい!今時まれに見る青少年だ。感謝状の1枚や2枚贈呈しないと!!」

今時まれにみるのはあなたの眉毛の太さとそのおかっぱ頭です。
‥と、喉まで出かかったのを何とか抑える。
話が変な方向に向かって流れてないか?

「感謝状…?」
「若者が謙遜なんてするもんじゃない!里の安全に貢献したんだ。さぁ行こうじゃないか!!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいってば」

いきなりどこかに連れて行かれそうになったので、必死にブレーキをかけてそれを阻止する。
どうした?と聞かれて、どうしたもこうしたも…と続けるが、この人はちっとも悪びれる素振りはない。
それどころか、何か問題があるのかと問うてくる始末。


…あぁ、やっぱり今日は厄日かもしれない。



無理やり手を振り解いて、家に帰ることにした。
しつこくてしつこくて、撒いても撒いても(あの顔で)追いかけられてきたときには泣きそうになった。

でも名前を教えたらあっさりと去って行ったので、翌日にはすっかり忘れていたんだ…。








1週間後、家に感謝状が届いた時にはナルトと一緒にびっくりした。
それと同時に喜びがこみ上げてきた。

どうやらうちにも住民票があったらしい…。



…こればかりはあの芋虫眉毛に感謝しないとな。





さて、バイトにせいをだしますか。















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ナイス・ガイなガイ様でした。