忍の里。
こんなに平和でいいのかよ!と聞きたくなるくらい平和だ。
…水面下ではどうなのか、わからないけれど。







Dent De Lion





住めば都。
なんて、よく言ったものだと思う。

「まったくもってその通りだよ」

流しを掃除しながら独り呟く。
変な服装の人間や忍がいることに慣れれば、ここはこれ以上ないくらい住み心地がいい場所となった。
家からそう離れていない所にある八百屋の野菜は安いし。
魚屋の魚は新鮮で美味しいし。
スーパーのおばさんは気さくな人でよく話を聞かせてくれるし。
ナルトの行っているアカデミーも結構近い所にあるしね。
まぁそんな訳で、立地条件は非常にいいわけです。



ただ この部屋は、ナルトのいない昼間、非常に居心地が悪い。


「…暇なんだよなぁー」

やることが少なすぎて、時間が余ってしまう。
掃除、洗濯、皿洗い、それが済んだら はいおしまい。
ナルトが帰ってくるまではテレビを見ているか、教科書盗み見してこそこそ勉強してるかだ。
スッゴく堕落した生活を送っている自信がある。
まぁ‥時間が勿体無いということは自分でもわかってるつもりだ。


だからバイトでもしてみようかと思ったんだけど…


「…これだもんなぁ」

机の上に広がる履歴書の山。
全部スーパーのおばちゃんが斡旋してくれた。
けれど、戸籍も何もない人間が履歴書なんて書けるはずもなく…――現在に至る。
(てかこの世界での履歴なんてないし)



そういえば、何故だかナルトはお金をかなり持っている。
だから甘えさせてもらってるわけだけど…やっぱり、この生活はいけないと思うんだよね。
お金は沸いて出てくるものじゃなくて、有限なものなのだから。
きっとナルトだって、これから先アカデミーを出たら高校、大学と進学していくだろう。
その際、お金は必要になる。
「家事とかやってくれてるからいいんだってばよ!」
なんて言ってくれるけど、家事手伝いだけで衣食住お世話になるというのはかなり抵抗があるのだ。
ナルト、年下だし…。


「う――…」

唸ってもいい案は出てこない。
唸って出てくるならいくらでも唸るが、出ないものは出ない。

「…とりあえず、気分転換に散歩でも行くか」




あ、今「こいつダメ人間だな―」って思ったそこのあんた!


…まったくもってその通りだよ。




















身に覚えのある雰囲気に、ふと本から目を離す。

「…悪夢だ」

人並みの中に、あの男が、いた。
延々と長話を聞かされた数日前のことを思い出す。
翌日は疲れがどっと出るわ、夢見は悪くて魘されるわで大変だった。
もうあの時の二の舞はごめんだ。
逃げるか迷う。
迷っている間にも悪夢は迫ってくる…。

見開いたままの本で口元を押さえ、考える。
さてどうするか。
正直、逃げたい。
でもなぁ…逃げたってどうせ追いつかれるだろうし。
そしたらまたあの冗談とは程遠い馬鹿力で顔挟まれるんだろうな…。
でグチグチ言ってくるんだよな…



――‥まったく。とんでもないやつに気に入られちゃったよホント。


逃げるに逃げられないんだったらいっそのこと、こちらから声をかけてやる。
連れ回される覚悟はできた。
あと数歩と迫った自称神様を見据えて、心中でため息をつく。
…ま、何とかなるでしょ?



あと3秒―――



2秒――――



1秒―――




「よっ!」

「………」



あれ?

綺麗に素通りされた。
なんか、片手上げて挨拶したままの俺ってかなり間抜けなんだけど。
というか…虚しい。

人違い‥ではないよな?
だとしたら、俺をからかうためにわざとシカトした‥ってとこか。
えっと…自称神様の名前はなんていうんだっけ?
変な響きの――…確か、だったか。
角を曲がり、姿が見えなくなりそうになるのを追いかけて引き留める。

「ちょっと!…様」
「…それって俺のことですか?」

名前を呼んだら振り返った。
若干、戸惑った顔をして。
…名字で呼んだのが気にくわなかったんだろうか?
それとも様付け?
自称神様だったから一応敬意を払って様って呼んだんだけど…
(ま、それと後から言いがかりを付けられないためにね)


「失礼ですが、あなたは?」
「へ?……俺のこと覚えてないの?」
「…すみません」

いやいやいや。
頭を下げられても困る。
あの時の高慢な態度は何処へやら…こいつの腰の低いこと低いこと!
自称神様が今や礼儀正しいただの少年だ…
このギャップは何?
演技?ねぇ演技なの?

「(落ち着け俺…)俺ははたけカカシ。聞き覚えは?」
「…すみませんが全くありません」

最後には「人違いじゃないですか?」と言い出される始末…。
でも彼の名前は確かに【】というらしい。
同一人物だ。
間近で見てるんだし、見間違えるはずはない。
記憶の中の彼と完全に一致しているというのに…中身が一致しないなんて。
何者かが変化している可能性は低い…。
っまさか記憶喪失?

…いくらなんでもそれはないか。
仮にも自称神様だ。
ほら、よく言うでしょ?
【腐っても鯛】って。
神様も似たようなもんで、腐ってもきっと神様なんだよ。
と自分に言い聞かす。

ま、どうでもいいんだけど。

そもそも、今なら簡単に逃げられるのに何故俺はこの場を去らないのか。
思ってもみなかったチャンスの到来だというのに。


「…あの、先を急ぐのでこれで」
「あ!ちょっと!!」

思った矢先に向こうから逃げ出してしまった。
…なんだかなぁ-。
頭をかきながら、小さくなっていく後ろ姿を見つめる。

俺はあいつを知っている。
でもあいつは俺を知らない。
複雑‥というより、妙な気分だ。



「…ちょっと火影様にでも聞いてみますか」


興味。
それがあいつに対する感情。

俺は身を翻し、目的地へと歩き出した。















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