傍観者に徹するつもりだったけど、そうも言ってられなくなったみたいだ。







Dent De Lion





「火影様お逃げ下さい!」

かかる重圧。
緊迫した空気。
頬を伝う汗。
呼吸をするだけ苦しい。


目の前にいる膨大な量のチャクラを放つ男。
先刻までとはまるで別人だ。
これは想定外だった。
やはり演技だったみたいだ…
けれど、まさかこれ程のチャクラを隠し持っていたなんて、この場所にいた中の何人が気付いていたのだろう。

いや…誰も気付かなかったに違いない。




猿が不審者を別室に連れていくために幻術をかけた。
そこまでは見えた。
けれども次の瞬間、猿の姿はかき消えるようにしてなくなった。

床に の痕だけを残して。

自分でいうのもなんだが、里の中でも俺は強い部類に入る。
仮にも俺は、暗部に属するもの。
見えないハズがなかった…
でも見えなかった。
ましてや彼も暗部の一人だというのに…。
暗部を一瞬で消し去るなんて…こいつはタダ者ではない。
…俺達はどうやらとんでもない化け物を連れてきてしまったようだ。

「…ふん。しばらくこない間に下界の生物はずいぶんと不味くなったものだ」

血の痕の隣に、眠ったはずの不審人物は平然と立っていた。
赤く濡れ、弧を描くつり上がった口。
…喰らったとでもいうのだろうか。
口元にばかり視線が向いてしまったが、驚いたことにこいつの頭には犬の耳が生えていた。
錯覚かと思ったが、どうやらそうではないらしい。
本来耳があるべき場所に耳はなくなっており、目の色は黒から青に変わり瞳孔も縦に割れている。
ビンゴブックにも載ってない顔…。
ホント、こいつは何者なんだ?

ふと七年前の九尾の妖狐事件を思い出した。
こいつのチャクラは限りなく九尾のチャクラに近い。
けれど、九尾のチャクラは邪悪で燃えるようだったのに対し、
こいつのチャクラは静かで…刺すように感じる。
まるで燃え滾る炎と全てを凍らせる氷のように性質が異なっている。



「さてさて。御主らに話が――…あるのだが、その前に」

不審者は通路の方を向く。
そして右腕を肩の高さまで上げて、扉にかざした。
何をする気だ?
敵に背を向けるなんて…罠か。
それとも余裕の現れか?

隙だらけの背中を狙って一人が攻めた。
が、そいつも猿の二の舞になった。
不審者まであと一歩に近付いたと同時、姿形がなくなってしまったのだ。
印を組んで術を発動したものもいたが、術が不審者に発動し、傷を負わせられそうになった瞬間にそいつらも消えてしまった。
血系げ…いや違う?
ともかく迂濶に手は出せない。
火影様だけは守り抜かなくては!


ドタドタ――‥
バンッ!

「火影のじっちゃ――‥」

駆け込んできた彼の言葉が最後まで言い切られることはなかった。
不審者によって気を失ってしまったから。
部屋に飛び込んできたのはうずまきナルトだった。

「おやおや!覚えがあると思ったらやはり狐だったか。久しいのう‥懐かしい」
「ッお前!そいつに何をした!!」
「ふっ。何をした…だと?お主らも自身のその目で見ていただろうに。私はただ――…」

こちらに向きかえり、右腕をこちらに向けて構える男。
いけない!逃げなければ!
‥そう、頭で理解していたはずなのに体が言うことをきかなかった。
眠気が襲う。
周りの仲間は次々と倒れていく。


「――‥ちょっと遊んだだけさ」


くそっ…眠気が‥!
火影様だけは殺されるわけには行かないのに…!

7年前の事件から復興作業がされてきて、やっとここまで修復できたんだ。
里には活気も戻りつつある。
今ここで火影様を殺されるなんて‥冗談じゃない。
もちろん里のみんなに危害が及ぶのも俺が許さない!


今 ここで 殺してやる


印を結ぶ。
接近戦でその首を掻っ切りたいが、この体じゃそう早くは動けない。

「その精神力!見事なものだよお三方。誉めて遣わそうじゃないか」

邪魔をされるかと思ったが、目の前の男は攻撃を仕掛けてこない。
それどころか、全く動く気配がなく、ただ笑っている。
‥余裕だね。
完璧にナメられている。
だが好都合だ。


「水屯・水牙弾!」

不審者の周りに現れる水塊に圧力回転をかけて遠心力を使って飛ばす。
この術は殺傷能力が高い。
決まってくれよ…!



ズゴォォオオーーーーー!!

砂埃が舞う。




その中に人影は―――‥ない。





「やった、のか…?」
「期待に応えられなくてすまないが、残念ながら生き残ってしまったよ」

「ッカハ!!」
ドカッ!バキバキバキッ――!!

首を掴まれものすごい力で投げ出された。
壁に激突し、それでも勢いはとまらず突き破り、外にまで吹っ飛ばされてしまう。
茂みの上に落ちたおかげでダメージが軽減でき、死なずにすんだが…
掴まれた首は、火傷を負ったかのようにじくじく痛む。
重い体を起こしながら首に手を当ててみると、掴まれた手形の跡が残っているようだった。
…強すぎだ。

あの一瞬で背後に回ったなんて…
スピードも、力も俺のはるか上をいく。
能力に関しては未知数…



ダンッ!
ズサーーーー――…

「っ!」

俺が突き破った壁の穴をそっくりそのまま通るようにして、何かが凄い速度で飛んでいった。
軌道が少しずれていたらしく、茂みに落ちずに近くの大木に当たって埋まる…
護衛の最後の1人だった。
ここにこいつが飛ばされてきたと言うことは火影様が危ない!
屋敷の警護のやつらが異変に気付いて部屋に向かっているかもしれないが、犠牲が増えるだけだ。

動かない体に鞭打って、駆けつける。





火影様!!!ご無事………のようですが、これはいったい‥?」
「‥わしに聞かんでくれ」

部屋に戻るとなんの危害も加えられた形跡のない火影様がいらっしゃった。
操られている様子もなく、呑気に茶をすすっている男を見てため息をつく火影様。
…どうなってる?
なんで机を挟んで火影様がこの男とお茶なんか飲んでるんだ?


「お前!まさかもう歩けるなんて…ゴキブリのようだな」

…何、こいつ。
茶菓子に手を伸ばしながら失礼なことを言ってのけてくれる。
ってか、え?
こいつ敵じゃないんですか火影様。
俺、瀕死の怪我を負わされたんですけど…?


「仕方ない。その強靭な精神力、生命力に敬意を払い、私が直々に怪我を治してやろう」
「…は?」
「そち、名をなんという?」

早く言え。と命令口調で続ける。
…何、この俺様な男?
うざいんだけど。

「…はたけカカシじゃ」
「っな!火影様!!」

暗部の時の名前ならまだしも、本名を言うなんて…!
やっぱり操られている?
いや、でもまさか火影様が操られるなんてそんなことはありえないだろ…



頭が混乱していて、どうしたらいいのか分からなかったその時。

身体が不思議な光に包まれた。



「これは…?」
「私の力だよ はたけカカシ 君」

変わらぬ調子で言葉を紡ぐ。

「私は神だ。覚えておけ」


………


「嘘…だろ」

傷が治った。
痛みも、ダルさも消えていく。
この分だと外傷だけでなく、内臓、骨までも完治しているに違いない。
こんな忍術は見たことがない。
だが、だからといって神だなんて……

「カカシ。こやつは敵ではない」
「その通りだ。まぁ仲良くやろうじゃないか はたけカカシ君」


…もう、ヤダ。


なんだかどうでもよくなった。





この自称神様は火影様に2,3頼みたいことがあってわざわざ降りてきたらしい…
そして火影様はその頼みを受諾したとのこと。
(かわりに消されたはずの猿や他の仲間たちが助けられたみたいだ)
(みな神様と接触した記憶を消され、家でぐっすり眠っているとのこと…)

依頼の内容は俺には知らされなかった。
しかし、この自称神様の話をいやってほど聞かされた…。
どうやら俺は、この神様に気に入られてしまったらしい。
‥よく喋る神様だよ、ホント。
しかも、俺様だしね。
きっとこいつ友達いないよ、うん。


「ちゃんと私の話を聞け はたけカカシ君」
「ぐ‥ふいまへん」
「よろしい」

素直に謝って、頬から手をどけてもらう。
危ない‥押しつぶされるかと思った。
それほどの馬鹿力。
でも「これだけの力を持っているなら自力で全てをすればいい」と皮肉を言ったら、
自称神様は悲しい目をして「干渉はできない」と笑って言った。

ルールというものはどこにでもあるみたいだ。


「…イチャパラ読みたいなぁー‥」
「こら。話を聞け」
「いっ!」

「…はぁ」



こうして俺の長い夜はふけていく。
…俺の記憶も一緒に消して欲しかった。
















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ふぎゃー!!人喰いg(黙れ