落とされたような衝撃。
冷たさ、寒さ。
そして、尋常ではない雰囲気で目が覚めた。







Dent De Lion





頬に当たる、冷たい感覚。
全身に突き刺さるような、痛い空気。


「…いつまで寝ている」

‥やっぱりバレていたらしい。
狸寝入りもここまでみたいだ。
まぁ、最初から見破られるとは思ってたけど。
だって相手は【忍者】だよ?
気付かないはずがないでしょ。

堪忍して、まぶたをゆっくりと開けていく。
最初に目に入ってきたのは、木目。
頬に当たっていた冷たい感覚は、この床だったのだとわかる。
見たことのない部屋。
背後に感じる禍々しい‥というか、嫌な視線のようなもの。
部屋の雰囲気が張り詰めているのはこの人物のせいだ。

起き上がろうとして、手が縛られていることにやっと気付く。
縄のようなものできつく縛られているらしく、食い込んで痛い。
足も縛り上げられていて、身動きが取れない‥。
それでもなんとか起き上がり、顔を上げる。
椅子に座りこちらを品定めするように見つめる老人と視線がぶつかった。
老人が被っている帽子には【火】と書かれている…。

…もしかして。
いや、もしかしなくてもこの人は――…


「…火影様、ですか?」
「いかにも」

最悪だ。
なんで最高権力者ともあろう人の前で、こんな無様な格好してるんだろ?
よりにもよって、パジャマだよ?
P・A・J・A・M・Aと書いてパジャマと読ませる寝間着だよ?
酷くない?
しかも初対面なのに。


‥いや、そんなこと考えてる場合じゃない。
相当焦ってるのが自分でもわかる。
なぜ国の最高権力者の前で、両手両足を縛られてここにいる?


「火影様。うずまきナルトと一緒にいた不審人物をお連れしました」
「ふむ。下がっていいぞ」

嫌な視線と共に、背後の男がいなくなった。
…けれど未だに視線はこちらに向いている。
前から上から右から左から、突き刺さる。
けれど視線を感じる方向を向いてみても、そこには誰もいなかった。
これは夢じゃないってことはわかってる。
でも、そもそもどうしてこんな所に?
ナルトはどうしたのだろう。
話からして、うちだけがここにつれてこられたみたいだけど…

「単刀直入に聞こう。君は何者かね?」
。高校生です」
「……ふむ。ではなぜナルトの家に?」
「行く場所がなかった俺をナルト‥君が拾ってくれました」

机にひじを突き、顔の前で手を組み考え込む火影という老人。
質問にはちゃんと答えた。
嘘は言ってない。
大丈夫、大丈夫、落ち着け自分。
いきなり殺されたりなんかしない‥はず。
とにかく今は、問われたことに対する答えを素直に応えていればいい。


身元が怪しいことがばれたら…その時はヤバイだろうけど。















緊急任務ということで、気合を入れてきたんだが…拍子抜けだ。
不審人物は逃げようとも、戦おうともしない。
寝ている。

監視しろって言われてもね…。

【うずまきナルトと狙った他国の忍を捕らえた】
って聞いたから、気合入れてやってきたのに。
あ、決して与えられた任務にいちゃもんをつけているわけではないよ?
今だってちゃんと監視しているし、いざとなったらすぐヤれるように準備はしてあるから、手を抜いているわけでもないし。
ただ…普段の仕事とはあまりにもギャップがあったからつい、ね。
読みかけの本という、甘い誘惑が俺を誘う。


「(年は10代後半。変なパジャマ。寝顔は普通。体系も普通)」

よーくこれだけぐっすり眠っていられるよ。
後ろにいる上忍なんか殺気向け始めてるのに…
こいつ違う意味で凄いかもしれない。
これで忍だったら驚きだ。
‥いや、殺気向けられて平然としている一般人だとしても驚きだけど。

そんなことを考えていたら、そいつは起きた。
…と思ったら、へったくそな狸寝入りをはじめた。
アカデミー入学したての子供の方が上手いよ?これじゃあ。


あー‥続きが気になる。
せっかく新刊手に入れたのに…!
でも任務はしっかりこなさないとね。



「(あ。今こっち見た)」

じぃーっと凝視するようにして、こちらを見た不審人物。
まぐれかと思ったが他の忍が隠れているところも見つめていることから、偶然じゃないとわかる…。
他のやつらも動揺を隠せていない。

‥理解できないな。
こいつが間抜けな忍なのか、それとも力を持った一般人なのか。
忍だとしたら、本物の馬鹿だ。
これだけの精鋭たちが集まっているのだから、ボロが出たら殺されるってことくらいわかるだろうに。
けれども、もしも一般人だとしたら…?



。コウコウセイです」



そんな変わった名前、聞いたことないねぇ…。

ナルトと同棲していた不審人物と火影様の対話を聞きながら思った。
不思議な‥というより、変な名前だ。
偽名だろうか?
‥偽名を名乗るにしても、もっとましな名前を言えばいいものの…


火影様の質問に淡々と答えていく男。
けれど、会話がかみ合っていない。
「どこの里から来たのか」と問えば「チキュウのニホンから来た」と答え、
「何をしにこの里に来たのか」と問うと「友達を探しにきたが迷子になった」と答えた。

チキュウって…何?

ふざけてるのかと思ったが、当人はいたって真面目な顔をしている。
しかも真実だと言い張る。
演技なら相当な演技力だね。
火影様の前で(暗部数人に囲まれた中)演技するなんて、いくら俺でも願い下げだし。
ワースゴイスゴイ。尊敬シチャウ。


「最後に聞いておこうかの…ナルトの家に上がり込む今日まで、君はどこで何をしていたのか」
「え?俺がナルトの世話になったのは今日からじゃなくてみっ――!」

あ。猿が前に出た。
(ちなみに猿ってナルトの監視係りで、この不審人物を連れてきたヤツね)

シュッ――‥
ドン!
「ッつ!何すんだ‥よ」

不審人物を床に押さえつけて、クナイを突きつけてる。
馬鹿だなー。火影様に任せておけばいいものを…。
どうせもうすぐ拷問することになるんだからさ。
それに監視を任せられた俺らが勝手な行動を取るのは…任務違反だ。


「火影様、こやつ‥ここで殺しておいた方がよろしいのでは」

いやいやいや!猿、お前馬鹿だろ。
殺しちゃダメでしょ、殺しちゃ。
…ま、情報を吐かせたらどうせ死ぬことになるけどね。


さーて。
どうなるんでしょ?
火影様に危険が迫らない限り、俺は傍観に徹するとしよう。
ほら任務だからね、任務。















「火影様、こやつ、ここで殺しておいたほうがよろしいのでは?」

殺…す……?


そんな言葉、他人の口から聞くなんて。
身体中が冷めきっていく。

“死”なんてどこか遠くにあるものだと思ってた。
忍者に捕まったら尋問・拷問されるかも!って考えてたのは半ば冗談だったし。
他人の口から発された「殺す」という言葉。
友達間で冗談で交わされるような言葉じゃない。
重みがまるで違う。
首に当てられた刃物が「殺す」という言葉の真実味をさらに高めていく。



ふっとの顔が頭をよぎった。
あいつ、元気にやってるかな…?
うち、お前のせいで殺されそうになってるよ。
……。


兎のせいだ。
うちは嫌だって言ったのに。
設定強くしておくとかほざいてたけど、全然強くないじゃないか。
今だって変な男に押さえつけられたままだ。
パチこいてんじゃねえぞ馬鹿兎。
兎なんて嫌いだ。
絶対、死んだら呪ってやる!



「…殺すにはまだ早い。別室につれていけ」
「御意」
「ぃっつ」

無理な体勢で、無理やり立たされる。
文句を言おうと首だけ後ろを振り返ると同時に、甘い香りが辺りを包んだ。
そのまま ふっ―と意識が遠のく。
何かの術をかけられた…そう気付いた時には目の前は真っ白になっていた。




ただ、意識が途切れる直前に、



廊下をバタバタとかけて来る音が聞こえたような気がした。















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【あとがき】
本編から5年前設定で書いてあるので、
ナルトは7歳。
カカシは21歳。
カカシをもっと若くしたかったけど、そうするとナルトが幼くなりすぎてしまうのであえなく断念…
そして、ナルトが7歳児にしてはずいぶん大人びた子供になっちゃってることに今気付きました…

………orz