隣にあった温もりが――‥

いつの間にかなくなっていた。







Dent De Lion





「ん‥兄ちゃん…?」

夜中にふと、目が覚めた。
寒いなぁと思いつつ布団に潜り込むと、隣で眠っているはずの兄ちゃんがいないことに気付く。
椅子には座ってない。
台所にも、いない。
電気がついてないから、トイレにも風呂場にもいみたいだ。


「どこ行っちゃったんだってばよ…」

放った言葉は暗い部屋に吸い込まれるようにして消えた。
寝る前までは確かに隣にいたはずなのに‥
兄ちゃんが抱きしめてくれてたおかげで、ぐっすり安心して眠れたというのに…


あの温かさは――兄ちゃんは――オレが作り出した幻影だっ た…?


ふと、そんな不安な考えが頭をよぎった。
いや…でも、そんなわけない。
確かに都合が良すぎるほどいい人だったけど、一緒にご飯も食べたし、手を繋いで歩いたりもした。
拾ってここまで連れてくるのだって、めちゃめちゃ大変だったんだ。
兄ちゃんが幻なわけ、ない…!



だとしたら 兄ちゃんは 今どこに ?



…わからない。
こんな夜中に行く場所なんて‥しかも里にきたばかりの人間がだぞ?
知り合いだって血縁者だっていないと言っていたのに‥
ダメだ。思い付かない。



「…どうすりゃいいんだってばよ」


途方にくれる。
やっぱり出ていっちゃったんだろうか。
…あ。もしそうだとしたら靴がなくなってるはず。
玄関へと急ぐ。
脱ぎ散らかしていたはずのオレのサンダルはしっかりと揃えられていて、隣には兄ちゃんの靴が綺麗に並んでいた。
そこでピン!と閃いた方程式。


靴はある。
  +
夜中に失踪。
  ll
  誘拐



「たたたた大変だってばよ!」

昼間結構兄ちゃん目立ってたもん。
兄ちゃん天然だから、きっと変な奴に目を付けられて拐われちゃったに違いない。
と、とりあえず火影のじっちゃんに相談して助けてもらうってばよ!


一目散に駆け出す。
サンダルが片方脱げてしまったが、この際どうだっていい。
足が痛くなろうが、傷つこうが、別にいい。



無事でいてくれよ、兄ちゃん――…!


じっちゃん家まではあと少し。















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