たどり着いたその先は――‥
Dent De Lion
「ナルトはこっから100m先にいるってさ」
ナルトの匂いを追い続け、本当に発見してしまった犬塚君とわんちゃん。
警察犬並…いや、結構な距離を歩いたからそれ以上の嗅覚だ。
まだまだ小さな子犬なのに、見かけによらず凄いなぁ…。
これだけの能力がある犬なら、欲しがる奴はいくらでもいるだろう。
出会い頭、うちのことを疑った気持ちがわかったような気がした。
そういえば…犯罪者と特徴が似ていると言われた時には少なからずショックを受けたっけ。
今となってはどうでもいいけど。
「…ここまでありがとう犬塚君、それに君も。ご苦労様」
子犬の頭を撫でてやる。
手を頭の上に乗っけただけで勝手に滑っていくほど、フサフサした綺麗な毛並みだった。
いいもの食べてるんだろうなぁ―‥。
「お前ホント可愛いね―」
ワンワン、ワン!
「ん?‥犬塚君。この子、何だって?」
「………聞き取れなかった」
「そう?」
まだ犬語を完全に理解してないって言ってたことを思い出し、深く突っ込まないでおこうと思った。
…けれど
ワンワン、ワン!
「…俺には聞こえねー」
ワンワン、ワン!!
「聞こえねーっての!」
「わからない」じゃなくて、「聞こえない」って言っているのがどうも気になる。
しかも同じ所で区切りをつけて吠えているということはそれだけ大切なことを伝えようとしているんじゃないか‥
と推測をしてみてもうちには犬語なんかわからないし、犬語のわかる犬塚君は「聞こえない」の一点張りだから無駄だ。
聞こえないなら聞こえない。
それで‥いっか。
ワンワン、ワン!!!!
「あ"―ッ知るかよ!!もう帰るぞ赤丸!じゃあなさん」
「ぁ、うん。またね犬塚君、わんちゃん」
バイバイ!と小さく手を振る。
子犬はすたすたと早足になった犬塚君とうちとを交互に見てから、最後にわん!と吠えて飼い主の後を追っていった。
…別れ際の挨拶だったのだろうか?
「まぁ‥そんなとこだろうな」
1人と1匹の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、ナルトがいるという方を向いた。
行っても怒らないだろうか?
第一声は「ごめん!」でいいだろうか?
許してもらえるだろうか?
嫌われたくないから、どうしても臆病になってしまう。
言葉を選ぶことに慎重になりすぎて不安は募る一方だ。
…でも、行くという選択肢以外選びようがない。
傷つけてしまったのだからきちんと謝らないと。
後になってワダカマリが残ってしまうのは一番嫌だ。
行ってどうなるかは‥神のみぞ知るって感じかな?
「……よし!行くか」
サクッと一歩を踏み出した。
「…オレってば何で逃げ出しちゃったりしたんだろ―」
自分でもよくわからない。
逃げる必要なんてなかったのに。
ただ、あの時は兄ちゃんを女子にとられたような気がして…
なんか胸がグッ!て圧迫されているような感覚になって…
考えるよりも早く、駆けだしていた。
今頃女子と一緒にあんみつ食べてるんだろうな―。
…オレも兄ちゃんと一緒に食べたかったってばよ。
「…兄ちゃん帰ってこれるかなぁ‥?」
木の葉の里は広い。
一般人では1日じゃ回りきれないほどに…。
サクラちゃんたちが送ってきてくれるなら話は別だけどさ。
ヤバいってばよ―…
帰ってこれなかった場合、兄ちゃんはどうするんだろう?
意地でも帰ってきてくれるかな?
でも元々手持ちの荷物とか持ってなかったし、オレの家に戻ってくる必要はないんだよな―。
「おかえりナルト」
おかえり と言ってくれた兄ちゃん。
家族ができたみたいで嬉しかった。
あの暖かさを忘れられなかった。
ずっと側にいてほしかった。
「………また1人ぼっちに逆戻りかぁ」
「…ナルト」
「!?」
ビクッと体が跳ねる。
心臓は刻むリズムの速度を上げ、血圧は急上昇。
…ここに彼がいるハズがないのに。
オレってば空耳に反応なんて示してどうすんだろう。
この場所を知っているのはオレしかいない。
だから誰もここに来るわけないし、ましてやオレに声をかけるなん――
「ナルト」
「…‥兄ちゃん…?」
恐る恐る後ろを振り返る。
…いた。本物だ。
目をゴシゴシ擦っても、兄ちゃんは消えないでそこに立っている。
兄ちゃんが、来てくれた。
そう頭で理解したら、自然と顔か弛んでいった。
謝らないと。
置いてきてしまったことを。
オレの側から、いなくならないでほしいから。
「「あのさ!」」
上手い具合にハモった。
‥お互い続きを言い出しづらい。
どうしよう…。
沈黙が痛い。
「…とりあえず、兄ちゃんも座るってばよ!」
「あ、うん」
少し横にずれて、隣に座れるようにスペースを空ける。
兄ちゃんが座ると、丸太はギシリと軋んだ。
一人で座っていた時には寂しいくらい広く感じた丸太が、今では狭く思えた…。
けれど、嫌じゃない。
服越しに感じる人肌が心地いい。
「すごい…」
「へへっ良いところだろ?」
「うん!」
高台にあるここからは、里全体が見渡せる。
里の様子はもちろんだけど、里の向こうにある山々や、その向こうに広がっている大きな空まで見られる、オレの大好きな場所。
まだ冬だから今はこれないけれど、人工的な光が徐々に少なくなっていくのに比例して輝きを増す星空を眺めるのはホントに綺麗で気持ちいい。
少し前にたまたま見つけた、オレだけしか知らない秘密の場所。
「…俺さ、ナルトに‥謝りにきたんだ」
「え?」
「ナルトが叩かれた時、怒ってやれなかったし。ほら、好きな子の前でカッコ悪い所見せることにもなっちゃったから…ホントごめん」
違う。
謝らなきゃいけないのはオレの方なんだ。
兄ちゃんが謝ることなんかない。
そう‥言いたいのに。
パンッと顔の前で手を合わせられ、必死に謝られたら何も言えなくなってしまう。
「俺のこと、許してくれる?」
「…許すも何も、最初から怒ってないってばよ」
「ッありがとナルト!」
ドンッ。
「わぁ!」
なんの前触れもなく抱きついてきた兄ちゃん。
ホントにいきなりだったから、支えきれずに後ろに倒されてしまう。
頭を丸太にぶつけてしまったけれど…あまり痛くなかったから別にいいや。
目を瞑ると兄ちゃんの甘い匂いがして気が安らいでいく…
なんでこんなにも心地よいんだろう?
同じシャンプー使ってるはずなのにおかしいよなぁー。
「…兄ちゃんそろそろ家に帰ろうってばよ」
「ん、ごめん。わかった」
あまりの気持ちよさに、本格的に寝に入りそうになるのをなんとか我慢して、声をかけた。
ぴょんと跳ね起きた兄ちゃんの勢いを利用して、オレも一緒に立ち上がる。
夜風が本格的になる前に家へと急ぐ。
ここら辺は治安は悪くないものの、それでも安全に越したことはない。
オレはこんなだけど、立派な忍だ。
でも兄ちゃんは武道の心得さえない一般人。
逃げ足には自信があるけれど、兄ちゃんを守り切りながらとなると‥厳しいと思う。
…早く帰って兄ちゃんとのんびりしたいなぁ。
「ねぇナルト」
「なんだってばよ?」
「またいつかあそこに行こうね。あれだけ景色が綺麗なんだもん、きっと夜だったら星がたくさん見られると思うんだ」
足が止まる。
やっぱり兄ちゃんってばすごい。
オレの欲しがる言葉もモノも、口に出してもいないのに、当てて与えてくれるんだもん。
「もちろんだってばよ!」
「あ、でも寒いからもうちょっと暖かくなってからがいいな」
心、読めるのかな?
なんて思っちゃったことは秘密にしておこう。
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