真っ赤に染まった夕焼けが――‥
星屑をちりばめた夜空に移り変わる時間帯。
オレが一番綺麗だと思う時間帯で‥
オレが一番嫌いな時間帯。
Dent De Lion
赤い空と黒い空が入り交じる時間帯。
みんなにとっては家に帰る時間。
‥オレにとっては一人になる時間帯。
「なぁ、もっと遊んでいこうってばよ!!」
返事はわかりきっている。
「ごめん‥もう帰らないと母ちゃんが晩飯作って待ってるからさ」
「俺も日が暮れる前に帰って来いって言われてるから…」
一人になるのは、イヤだ。
だからみんなを引き留めたくて毎回声をかけた。
けれども、彼らには帰る場所があるから…
みんな帰れば“暖かい夕食”と“暖かい家族”が待っているから…
おれとずっと遊んでいるわけにはいかないんだ。
“家族”なんて‥おれにはいないのに。
「そっか。じゃあまた明日な」
「バイバイナルト」
「また明日!!」
一人、また一人と家に帰り…気が付くとオレはいつも一人きり。
友達をオレから奪っていく太陽が憎かった。
沈まなければいいとまで思ったこともあった。
けれどもそれは無理な願いで…
どんなに祈っても、どれだけ望んでも、絶対に叶うはずなかった。
だから早く夜明けがくるのを待つしかなかったんだ…。
ギィー‥コー
ギィー…コ―
風に吹かれてブランコが揺れた。
ブランコはまるでおれを呼んでいるみたいで、オレはちょこんと座って空を見た。
視界いっぱいに映る夕焼け空。
その大きな空の下に広がるちっぽけな家々。
木の葉の里は広いと知っているけれど、その里よりも大きな空はどれだけでっかいんだろう?
その空に近付きたくて、立ち上がってブランコを漕ぎ出す。
ギィーコー―‥
ギィーコ―――…
少しずつ、少しずつ、空に近くなる。
視界いっぱいに広がる空の赤。
もっと高くまで漕げば空まで届くような気がして、足で思いっきり蹴り付ける。
けれど、限界という現実がオレの前に立ちふさがった。
「…もう、帰るってばよ」
これ以上漕ぐと、一回転してしまう。
何事も諦めが肝心。
そう自分自身に言い聞かせる。
ブランコから降りて、帰路につく。
しっかり前だけを見て、家を目指す。
大人と目が合うと…嫌な視線を受けるから。
見慣れた町並み。
毎日毎日変わらない。
代わり映えのない世界にうんざりしてた。
だって変化のないことほど退屈なものはないだろ?
「…あ!タンポポだってばよ」
可愛いなぁ――‥
道ばたに咲いてたタンポポ。
朝見た時にはまだ蕾のままだった。
黄色い花を天へと向けてすごく生き生きしている。
ツンツンとつつくと反動に合わせて揺れた。
ここ最近の晴天続きのせいなのか、葉は少しかさかさしている。
「お水、いるかな?」
うっきー君が枯れかけた時もお水あげたら持ち直したし…
とりあえずジョーロを持ってこよう。
あと余ってる肥料もちょこっと。
幸いこの場所は家からからそう遠くない。
「よっ ほっ たっ とっ りゃ!」
タンッ!!
「10点!…ってあぁ!?」
階段をリズムよく降りると、ジョーロの水は半分くらいになっていた。
普通に降りればよかったかなぁ…?
せっかくいっぱいお水をあげようとなみなみと注いできたのに…
「まぁ、いいってばよ」
水まきして涼しくなったと思えばどうってことない。
…まだ夏じゃないけど。
それにあんなにたくさんの水、必要なかったし。
残った大切な水をこぼさないように慎重に運ぶ。
夕空はすでに闇に呑まれ、星達が輝いていた。
「これで大丈夫」
肥料もあげたし、水もあげた。
これでこのタンポポはもっと元気になるはずだ。
「じゃあ…またな」
立ち上がってお別れを言う。
返事はもちろん返って来なかったけど、風にそよいで揺れていた。
なんとなくその姿が喜んでいるように見えたオレは――‥やっぱちょっと可笑しいのだろうか。
…帰ろう。
考えるのはやめだ。
今は、今だけは、この幸せな気分に浸っていよう。
ジョーロ片手に家への道を帰ろうとした。
その時
ドサッという鈍い音が 背後から聞こえた
「……ッ…」
怖くて声が出ない。
心臓がバクバクと波打っている。
何かいるんだろうか?
確かめたいけれど、後ろを振り向く勇気なんて持ち合わせていない。
そういえば、日が暮れてからは外に出るなって火影のじっちゃんにいつも言われてたっけ…。
忍?
刃物持った凶悪犯?
それともヘンシツシャ?
どれもヤだけど、どれかだったらどうしよう…
やっぱり火影のじっちゃんの言いつけはしっかり守っておくべきだった。
ごめんじっちゃん。
じっちゃんの話なんてこれっぽっちも聞いてなかったせいでこんな目に合ってるわけだから自業自得なんだろうけど…
「じっちゃんの話は堅っ苦しくてつまんないだけだったんだってばよ−−−!!」
最後の悪あがきに と、振り向きざまにジョーロを背後に向かって思いっきりブン投げた。
カラン‥カラカラカラ――‥
「…あれ?」
瞑っていた目を開いて見てみると、十数m先に今投げたジョーロが転がっていた。
キョロキョロと見回しても高い塀が連なっているだけで誰もいない。
凶悪犯やヘンシツシャがほんの数秒で音もなくこの塀を登ることはできないだろうし…
でもだからといって忍が俺を狙ってるわけではないと思う。
もし忍が俺を傷つけようとしていたのなら、オレは今ここに立っていないだろうから。
確かに後ろの方で“ボスッ”って音がしたんだけど…?
空耳だったんだろうか。
「おっかしいなぁ…?」
とりあえず投げたジョーロを拾いに行く。
自分が投げた物を自分で拾いに行くなんて端から見たらかなりまぬけだがそんとこは気にしない。
確かに聞いた“ボスッ”という音。
例えて言うなら、何か膨らんだビニール袋のような物の上に着地した感じだったんだけど…
ビニール袋‥ビニール袋…ビニール袋って言ってもなぁ。
目のつく所にそんな物無いし。
やっぱオレってば疲れてんのかな?
「…家帰って寝るってばよ」
ジョーロの前まで到達し、拾おうとしゃがみ込んだ。
そこでオレは一切の動きを止めた。
ゴミ捨て場のビニールゴミの上に、1人の人間が寝てたから。
ゴミ捨て場から投げ出された手に力は無く、死んだように白くて…
本当に死んでいるんじゃないかと思った。
それと同時にさっきの音の正体はこの人だ、と頭の中で理解した。
死体が目の前にある現状。
怖さのあまり泣き叫びたかった。
叫べば誰か大人がきて、この現実をどうにかしてくれる気がした。
けれど叫ぼうが何をしようが、オレのために大人が助けてくれるはずがないことに…気付いてしまった。
しっかりしないと…だめだ。
反応を見るために出来るだけ距離をとりながらおそるおそるジョーロでつっつく。
だらり…
「ギャーーー!!?」
に"ゃー――!!
近くにいた猫が毛を逆立てて逃げてった。
オレってばなんでこんなにビビってんだろ…。
手がゴミ袋からずり落ちただけなのに。
なんだか自分が情けない。
「寝てんのか死んでるのかだけでもわかればなぁ…」
やっぱり直接脈を測るなり、呼吸を確かめるなりしないとだめか。
ゴクンと唾を飲み込む。
「男ナルト行きます!!」
大きく一歩踏み出した。
「………」
起き上がる気配はない。
指でつんつん。と突っついてみたけれど反応は返ってこなかった。
間近で見ても、この人は男か女か判断しづらい。
男といえば男だし、女の人といえば女の人だ。
見たところどこにも外傷らしきものは見当たらず、血も流れていない。
「…なんだこれ?」
首からかかっていたピンク色のウサギ型看板。
手に取ってみると、小さな文字が並んでいた。
“ご自由にお持ち帰り下さい”
紫色の文字がピンクの台紙の上でチカチカ光っている。
他に何か書かれてないかと目を凝らしていると、疲れて痛くなってしまった。
「ってか趣味悪すぎだってばよ…」
ウサギの形をした所も、色も、書かれていることも全部含めて。
はぁ。と一息つく。
とりあえず首の脇に手を置き、脈を確かめてみた。
――‥生きてる。
脈打つ音が、指を伝わって響いてくる。
白くて、血の通っていないと思っていた手もほんのり温かい。
口元に手をかざしてしてみても、確かに呼吸をしていた。
「………」
この人は…
どこの誰なんだろう?
行方不明者なのかもしれない。
家出人かもしれない。
どちらにしても火影のじいちゃんに報告すれば済むだろう…
それで終わる。
終わる‥けど、さ。
「今日だけ、オレが看病してやってもいいよな?」
公になるのこの人嫌がるかもしれないし?
首にも“面倒見て”みたいなことが掛かってたし…
オレは保護するだけ
自分に言い聞かせながら、この人を運んだ。
や、決して誘拐なんかじゃないってばよ?
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【あとがき】
実はこの話を本編に入れるつもりなかったんです。
でもナルトはとっても心の優しい子で‥繊細で‥感受性の強い子だということを
読者の皆様に理解していただこうと思いまして…私の拙い文章力では伝えきれなかったかもしれませんが;;笑
まぁそんなこんなで
その辺に生えてる野花が花を咲かせただけでも自分のことの様に喜べる純粋な子に違いない!!と書いたお話でした。。。
…ンもうッ!!ナルトカワユスvV(*ノд`)bハァハァ