「将来の夢は?」
と聞かれて、小さいころの私は
「お年寄り」
と答えたそうです。

でも、今、その夢は叶うかどうか危うくなっています。
天国のおじいちゃんおばあちゃん。ついでに神様。
私のことを守っていてください。







H×H





「彼は殺さない」

聞いたことのない誰かの声で目を覚ます。
下に感じる草の感触から、自分が今地面に寝かされていることがわかった。
でも、どうしてこんなところにいるのか思い出せない。
家の近くの公園で昼寝でもしてたんだっけ?
…いや、いくらなんでもそれはない。
そんな青春漫画のようなことはしない。

まぶしいのを我慢して目を開ける。
視界に入ってきたのは真っ青な空。

「…やっぱり公園で寝てたんだっけ?」

小さな声で呟いた。
日の光を浴びて、緑の中で眠るのはとても気持ちのいいことだ。
けれどあたしは、蟻や小さな虫が嫌いだから、滅多にそんなことはしない。
相当疲れていない限りは…。

「その人に近づくな!」

ザッザッという足音。
それに続いて少し距離のある所から怒鳴り声が聞こえた。
…この声には聞き覚えがある。
どこかで確かに聞いた。
この、男の子にしては高い声の持ち主は…誰?

「ダメダメこの子 も試験しないと不公平だろ?」

青空が何者かの影に遮られて見えなくなった。
逆光のせいで顔が見えない。
…この人、誰だろう?

「逃げろ!!」
「ッ!?」

ザシュッ!ザシュッ!!

地面にトランプが生えた。
そこはちょうどさっきまであたしが寝ていた所。
名前を呼ばれとっさに横へ転がったのは正解だったようだ。
すぐさま立ち上がり、攻撃してきた相手の顔を見ようと目を凝らす。
そして、その非現実的な人のおかげで脳細胞が一気に覚醒した。
自分が今、どのような状況下にいるのかやっと理解する。
‥ちょっと、知るのが遅すぎたかな?

現実に戻ってるかと思ったのに、まだこの世界にとどまっていられたみたいだ。

「悪くない反応だ」
「…ヒソカ」

ピエロのような服装に独特な顔のペイント。
自称奇術師で、幻影旅団で…人殺し。
(そして地下道で私のあとをピッタリつけてきたストーカー)
ヒソカに会うのはまだ早いと判断し、レオリオとクラピカの元から去ったというのに全く意味がなかった。

…せめて心の準備が出来てから会いたかったよ。

レオリオを担いでいる事から、“漫画”の展開通りヒソカは彼を合格させたようだ。
あたしの合格できるといいんだけど…どうなることやら。
とりあえず攻撃されてもいいように、じっとヒソカを睨みつける。

「いいねェその目ゾ クゾクしちゃうよ」

右手を口元に当て、クスクス笑うヒソカ。
その仕草が少し可愛いと思ってしまったのは…内緒だ。
そりゃあ、私なんかがにらんでも全然怖くないだろう。
けれど、だからといってゾクゾクsちゃうって…この変体め!

「でも殺気の出し方がなってないなァ◇」
「‥あいにく、一般人でして。殺気なんてものとは無縁だったんですよ」
「へぇ◇じゃあ手本をみせてあげよう。
殺気は こうやって出すんだ◇」
「「「!!!」」」

全身を針で突き刺されるような痛みが駆け抜ける。
足に力が入らなくなり、立っていられなくなった。
力なく地面に座りこむ。
殺気なんて出した覚えてないのに!

「逃げないのかい?」

逃げないんじゃなくて、逃げられないんだ。
倒れないように自分の体を支えることだけで精一杯。
指一本動かせはしない。
ヒソカはそれをわかっていて、なお聞いてきているんだろう。
…性悪男め。
笑みの耐えないヒソカの顔を、眼だけで殺せるように思いっきり睨みつけた。

「…ホント、いい目だねェ◇今、ここで殺りたくなっちゃうよ」
に手を出すな!」

クラピカが怒っている。
あたしのためかな?なんて自惚れてみる。
もしそうなら嬉しいけど、今までの反応からしてそれはありえなそう…。
クラピカは目の前で誰かが傷つけられるのがいやで、そんな同情心で言ったんだろう。
二本の刀を手に持ち、ヒソカに向けて構えた。

「試験官に武器を向けるなんて駄目じゃないか◇」

キンッ!カラカラ―――‥

クラピカの手から刀が落ち、一枚のトランプが地面に突き刺さった。
金属片と金属片がぶち当たった音だったに、刀に当たったのがトランプだったなんて信じられない。
ヒソカの右手が一瞬動いた気はしたけれど、目で捉えることさえ出来なかった。
このまま戦うことになったら間違いなく殺されるだろう。
死にたくないのに…どうすればいい?
ここは逃げるべき?
それともヒソカに立ち向かうべき?
どちらにするかは―――…

「君が逃げ出したら彼が死ぬけど、それでもいいのかい?」
「っレオリオは関係ないでしょ!」
―――‥今、決まった。

ヒソカが指差したのはレオリオ。
彼は合格とされているけど、ヒソカなら本当に殺しかねない。
私はこの世界にいる、大好きな人たちに会うために来た。
それと‥‥悲しい未来を変えるために。
これは私のエゴで、自己満足なのかもしれない。
それでも、未来を悪い方向ではなくいい方向に変えてやると‥‥そう決めたんだ。
だからレオリオを殺させはしない。
主要人物だし…実は結構美形だし、あたし美形大好きだし。

「う、ご‥け……!」

言う事を聞かない身体に鞭打って、無理やり動かす。
殺されるかもしれない。
そんな言葉が一瞬頭をよぎった。
でも、レオリオには死んでほしくなった。
だから、いつもの何十倍も素早い足を駆使して、思いっきりヒソカの胸元へ駆け込む。
そして、手に持っていたものをヒソカに向かって振り下ろした。
…はずだった。

バコッ!
「くふぇ…ぅ」

「あ」

ヒソカがレオリオでガードしたせいで、レオリオの頭に攻撃が当たってしまった。
変な声出てたけど大丈夫かなぁ?
未来の医者の頭脳がおかしくなっていたらどうしよう…!?

「君も合格◇いい果実になりそうだまあ、まだまだ花も咲いていないみたいだけれど」
「………」

なぜだろう。
合格したのに心の底から喜べない。
とりあえず、ヒソカに殺されずに済んだみたいだから、ほっとしたけれど…
けれど、レオリオがぴくりとも動かない!

「確認ですけど、その人呼吸してますか?」
「………◇」

奇術師はにっこりと笑みを深めた。
…よし。あたしは何も見ていない、聞いていない、知らない。
何もなかったことにしよう。


!無事か?」
「お姉さん大丈夫!?」
「…クラピカ、ゴン」

ゴンとクラピカがヒソカを警戒しながらも駆け寄ってきた。
あー。この2人がいるから、何もなかったことには…できないか。
まぁ、いいや。
レオリオが覚えていたら謝ろう。
…でもなー。あれは不可抗力だったと思うんだよね。
そもそもレオリオを盾にしたヒソカが悪くない?
あたしはヒソカを殴ろうとしただけだし。
たいしたダメージじゃないんだからヒソカ自身が受けてくれりゃよかったのにさー。
あれか。ヒソカはドSだから、殴られる方じゃなくて殴る方なのか?


ぐいぐい。

「ちょっとさん!いい加減戻ってきて!!」
「っうおう?あ、ごめんゴン。ってあれ?ヒソカがいなくなってる…」
「ヒソカはもう二次試験会場に向かってしまったのだよ」
「げ!!ごめん」

またやってしまったらしい…。
1度思想が飛んでしまうと、もうどうにもならない悪い癖。
でもそれがあたしの持ち味!そして特技でもあります!!
先生とか親に怒られてる最中や、嫌なことがあったときになんかに非常に有効です。
電車やバスを待っている時にこの状況に陥ってしまうと最悪ですが。

って、また話がずれそうになったけど…

「アタシ達ハ二次試験会場ニタドリ着ケルノデショウカ…?」
「今ならまだ匂いを辿れるから大丈夫だよ!」
「だが二次試験がいつ始まるかもしれない。急ごう」
「了解です!」

「あ、さん。俺のリュック持っててくれてありがとう」
「リュック?」

自分の手元を見れば、確かにゴンのリュックがあった。
そういえば、ゴンの背中に乗せてもらったときにあたしが背負ってたんだっけ?

「ごめんゴン。これでさっきレオリオのこと殴っちゃった」
うん知ってるよ。見てたから」
「な、中身大丈夫そう?」
「大丈夫だよ」
「み、見なくていいの?」
「うん。きっと大丈夫だよ

…ゴンの笑顔が、心なしか、怖い。
そういえば、ヒソカに攻撃を受けるまであたしは草原に大の字になっていたわけだけれども、それってゴンがあたしのことをそこに寝かせて(放って)おいたからだよね?
さらに今さっき気付いたんだけれども、ちょうど頭の下の所が泥になってて髪の毛が弱冠ガシガシになってるのよね…これ、わざとだったのか?
寝てから起きるまでの記憶がないから真偽はわからない。
でもこの笑顔といい、その仮説といい…

こいつ実は腹黒いのか?


「どうかしたか
「いや…なんでもないです。先を急ぎましょ」

きっと思い過ごしだ。
確かにゴンは富樫漫画の主人公ではあるけれども、あたしは純粋な子であると信じている。
ゴンは単に、自分のリュックが武器として扱われたからちょっと気分を害したんだ。

そう自己完結させて、二次試験会場へと走り出した。



「チッ」

「「………」」




知らないほうがいいことも、世の中にはあると思う。



















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【あとがき】
死を意味する不合格。
そんな試験、受けたくないなぁ…