回避は出来ないみたいです…。

やっぱりイベントは、参加するためにあるのかねぇ?







H×H





あたしの書いたシナリオ通りにいけば、このままなんの問題もなく二次試験会場に着く………はずだった。
霧の中から突然、誰かが出てこなければ。


「うわっ!?」
「え…?」

ゴンッ!

額を思いっきりぶつけ、その反動で後ろに倒れこみ今度は頭を強打した。
さっき地下道で頭を打った所をちょうどぶつけたらしく、ジンジンと痛む。
…たんこぶレベルの話じゃない。
ちょっとでも気を抜けば、意識が途切れそうになる。
それをなんとか気力で繋ぐ。
ここで倒れたら、湿地に棲む生き物たちに食われてしまうだろう。
ついさっき野望のために自分の命をとったばかりだというのに…
美景(美形ともいう)があたしを待っているというのに…こんなところで死んでたまる かっ!!
と、そんな思考だけで意識を保っている状態。
…たぶん、長くは続かない。


「いてて…。あ、お姉さんごめんなさい!俺がちゃんと前見てなかったから…」

緑色の服にツンツン頭の少年が頭を下げている。
この少年のことを、あたしは“知っている”。
この子は“ゴン”だ。
あたしの読んでいた漫画の、今いる世界の主人公。
さっきは何故か会えなかった、Beautifulな生足の持ち主
ホントなんで会えなかったのか…これはもう神様のいたずらとしか思えないけれどそんなことはどうでもよくてってかその運命のいたずらのせいで猫目で Cuticleな銀髪の彼を見ることもできなかったんだよね…。
嗚呼生足が呼んでいる。美形があたしを呼んでいる。


…とかなんとか思考が離れている間、あたしは無表情でいた。
そのせいでゴン君は、あたしが怒っているのだとどうやら勘違いをしたらしく、何度も何度も頭を下げ、誠意をもって謝罪の言葉を口にしていた。
こんなに必死に謝られたら文句を言う気も失せるというものだ。
ってか元々怒る気なかったけど。

「気にしなくていいよ。あたしがぼーっとしちゃってたのも悪かったんだし」

とは言ったものの、頭が痛い。
あー痛い。痛いものは痛い。
いまや痛みはジンジンではなくジクジクレベルにアップしている。
あたしはMじゃないから痛いのは嫌いだ。
…これがゴンじゃなかったら、ぎったぎたの滅多打ちにしてやってるものを……!!


「お、お姉さん…?」
「…え、あぁゴン‥って音したけど大丈夫だった?」
「俺は大丈夫!お姉さんの方こそ怪我しなかった?」
「ちょっと頭を打っただけだから心配ないよ。ありがとう」

ちょっとどころじゃないがな。
けれどそんなことを初対面の彼に言えるはずもなく…
(これからの関係を考えるとやっぱりね)
‥ま、違う意味で危なかった。
思わずゴンの名前を呼んでしまいそうになったから。
初対面なのに相手が自分のことを知っていたら、少なくともちょっとばかしは警戒心を抱く。
今回はたまたま誤魔化しのきく名前だったからいいものの、毎回誤魔化せるとは限らない。
特に慎重な人やうそを見破るのがうまい人に出会った場合はボロを出さないように気を引き締めていかなければ!
…なんていっても、あたしのことだからきっと本人前にしたらウハウハで舞い上がっちゃってそれどころじゃないんだろうな。

「ちょっとゴメン」
「はぃ?」

前髪を持ち上げられ、顔を覗き込まれる。
いきなり迫ってきたゴンの顔に驚き、焦って、動けなくなった。
うおーーーーー!!!!!何この急展開!?と内心パニックを起こしな がらも、せっかくの機会なのでじっくりとゴンのお顔を拝見する。
我ながら結構ずぶとい神経の持ち主だと思う。

光り輝く大きな瞳。
にきびやしみなんて無関係な白い肌。

まったくもって羨ましい!
女として妬けてしまう。
でも、おでこは怪我してないと思うんだけど…?


「少し腫れてる…。ごめんなさい俺のせいで!」
「いや、たいしたことないだろうから気にしないでいいよ」
「ううん。そんなわけにはいかないよ!
女の子の顔に傷を付けちゃ駄目だってミトさんが言ってたもん。
今はこれくらいしか出来ないけど…」

怪我――というか腫れていたみたいだ。
おでこが腫れているすがたを想像して‥急いで前髪で覆えるだけ顔を隠す。
ゴンはリュックから包帯を取り出し、あたしの頭に巻いてくれた。
緩すぎず、きつすぎず、ちょうどいい力加減だ。

「ありがとう」
「どういたしまして!お姉さん立てる?」
「大丈夫…」

地面に手をつき立ち上がる。
けれども頭がくらくらして、その上視点が定まらない。
結果、足元がぐらついてよろけてしまった。
全然大丈夫なんかじゃないじゃんあたし!

「走るのは無理そうだね…俺の背中に乗って」
「え゛!…それはちょっと―――‥」
「いいから!」

ゴンがリュックを下ろし、腰を屈めた。
彼だって急いでいるはず。
それなのに、あたしをおぶって行ってくれるとまで言っている。
レオリオとクラピカを助けに行くんだろうけど…ここで断るのもなんだか悪いし。
正直立っているのもつらいので、お言葉に甘えさせていただくことにしよう。

ゴンのリュックを背負い込む。
純粋にまっすぐ育ってくれたゴンとその母親のミトさんに感謝しながら彼の背中に乗った。
まだまだ小さな体があたしの体重に耐えられず、潰れてしまうのではないかと思ったが、その心配は杞憂に終わった。
よくよく考えれば、沼の主を何食わぬ顔で運ぶことができる馬鹿力の持ち主なのだから、あたし一人くらいおんぶできて当然なのだ。
…ん?ちょっと待てよ…?
あたしって、沼の主と同じ扱いってこと?
うおおおお!!それはちょっとばかしショックだよ!
さすがのあたしでもあのげてものと一緒にされちゃ困るよ!


「俺はゴン。お姉さんの名前は?」
「っぁ、うん。あたしは。こんな格好でなんだけど、よろしくねゴン」
さん…さん……よし!覚えた。こちらこそよろしくさん!あ、俺、友達を助けに戻らなきゃいけないんだ。  でも必ずお姉さんを次の試験会場まで連れて行く。約束するよ」
「…わかった」

知ってるよ。
ゴンが誰を助けに行こうとしているのかも、そのために“試験官”の元へと急いでいたことも。
それに、ゴンが約束を必ず守るってことも。
そのことは漫画を読んでいたから知っていたことだけれど、ゴンの“約束”という言葉を聴いて、それは確証に変わった。
だから安心して身体を預けることができる。


…ヤバいなぁ。眠い。


ステーキ食べて、適度な運動をして、落ち着ける場所を見つけた。
まぶたが段々重くなってきて、自分の力ではもうどうにもならない。
ちょっとだけ、眠るとしよう。



おやすみ、ゴン―――‥‥













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