「帰ってきた!」「戻ってきた」
「ホントに女王様だー」「会えた会えた!」「嬉しい!」
「綺麗」「ね。想像してたより綺麗」「うんうん」
「うるさいぞ!」「女王様困ってる」
ピーピー!
クエックェ!
…何がなんだか分からない。
チョコチョコ大冒険!
意を決して巨大物体を振り返った私。
そこにあった‥いやいたのはでっかい亀みたいな怪物だった。
通常の100倍はありそうなサイズ。
ミドリガメを隣に並べたら、蟻と象くらいの差がありそうだ。
少なくとも乗用車以上の大きさはある。
「あば、あい、あああ…」
言葉にならない。
っていうのはまさにこのことを言うんだと思う。
奇声をあげた私に気付いて、デカ亀はこちらをゆっくりと向いた。
私は…えと、そう、木だ!
そこら辺に落ちている石ころとなんら変わらない。
「………」
あ。ここは砂浜だった。
見詰め合ってから数秒して、やっと気付いた。
…別に砂浜に石が落ちててもいいじゃないか。
砂浜に木が生えてたっていいじゃないかッ!
生命力のある木万歳!!
脳内で自己完結していたら、デカ亀は私に興味がなくなったのかそっぽを向いた。
木、すごい…すごいよ木!
君たちに成りすましたおかげで食われないですんだよ。
ありがとう自然。
ありがとう大地。
私は今日という日に感謝して――…
ドドドドドドドド
「!!」
今度は何?
地面がわずかだが揺れだした。
‥この小刻みな揺れ方は初期微動かもしれない。
そうだとしたら大変だ。波打ち際から離れないと!
地震の後には津波が来る。
巻き込まれたら、この体じゃ泳げない。
死ぬ。
とりあえず砂浜から離れて様子を見る。
海の潮が引く‥のはまだ大丈夫みたいだ。
さっきのデカ亀が動いてないから目安に出来る。
けれども小刻みな揺れはまだ続いている。
そのうちドッカーン!と大きな揺れがくるかもしれない…。
周りに倒れてくるようなものがないか確認して、ぐっと身構える。
ドドドドドドドドドドドドドドドド
揺れが大きくなった。
けれど ドッカーン!な主要動はまだこない。
初期微動が徐々に迫ってきてる感じだ…。
ジョーズのBGMを思い出してもらいたい。
最初はゆっくり小さめに、だんだん大きくなっていき最後は ズギュワガーン!
なあれだ。
「も、もしかして地割れが起こるのかも!?」
この揺れようだ。
普通の地震ではない。
地面と険しい顔をして、睨めっこをする。
さぁ、準備は出来ている。
割れるなら割れるがいい!
………
「お、おさまった…?」
ブレて見えていた地面はピタッと止まった。
いや、でも油断ならない。
地割れは何も自分の足元からのみ発生するわけではないのだから。
もしかしたら、周りのどこかに亀裂が入っているかもしれない!
と、顔を上げた。
そこには…
黄色い海が広がっていた。
夕日や朝焼けに照らされた美しい海ではない。
所々黄緑や水色が混ざった、青い目玉がいっぱいついた生きている海だ。
(シーン――としているが、目をぱちくりしているから生きている‥と思う)
地平線の果てまで(ほぼ)黄色で埋め尽くされている。
その光景は…正直、綺麗だとは思わない。
前を見ても、後ろを見ても、真っ黄色。
左を向いても、右を向いても、真っ黄色。
「「………」」
まん前にいた、1匹(この場合は1羽と言ったほうが正しいのだろうか?)と目が合う。
こんなに大きくて可愛げのある鳥は初めて見た。
くりくりした大きな瞳。
その瞳の中に映る自分。
容貌が似ているのは気のせいではあるまい…
もしかしなくても、私‥この鳥になってるんじゃ?
その予想は、残念ながら 大当たり だった。
「あ、あの…」
その声が引き金となって、静寂は破られた。
そして、冒頭に戻る。
ピーピー!
クエクエクエ
ピーシャラピーシャラ♪
「…うるさい」
ピタッと音がなくなる。
同時に鳥たちは一切動かなくなった。
目だけはこっちを向いたまま。
コテ。っと片足で立っていた鳥が転げたが知ったことか。
なんとも形容しがたい空気の中、1話のすこし羽の薄くなった鳥が前に出た。
「女王様?」
「違う。私は女王じゃない」
まず訂正から入る。
私は女王様なんてたいそうな身分になった覚えはこれっぽっちもない。
(言ってしまえば鳥の仲間入りをした覚えもないけれど)
とりあえず、これ重要。
女王様といったら不●議の国のア○スで出てくるハートの女王しか頭にない私にとっては死活問題なのだ。
誰があんな眉毛の太いオヤジのようないかつい顔と同じにされるもんか!
どっちかっていうと王女のほうが可愛くて繊細で…是非とも間違われたい。
「女王様は女王様でしょ?」
「だから、私は女王様なんかじゃないんだってば!」
静寂が舞い戻る。
なんだこの重苦しい雰囲気は。
さっきみたいにとは言わないが、ちょっとくらい場を盛り上げたらどうなんだ。
「黒い羽」
「黒い瞳」
「黒い心」
…黒ずくめですね。
というか、最後に変な単語が混ざっていたのは気のせい?
きっと気のせいだよね、うん。
「あなたは女王様」
「女王様は黒い色」
「黒い色は王族の証」
そんなこと言われたって…
確かに今は黒い羽毛に、黒い瞳を持ち合わせているけれど…
(黒い心はどうだかしらない)
ただ、全身が黒いだけで、王族になれると?
‥確かにここにいる鳥はほとんど黄色で、他の色なんて黄緑か水色以外見当たらないけれど。
これだけの数がいて、1羽くらい黒いのがいてもよさそうなのにいないけど。
だからといって、なぜに女王様?
「あー…なんで君たちはここに集まったの?」
「女王様が鳴いたから」
………。
「みんな耳がいいんだね」
「違う」
「女王様の声は特別」
………。
「他に黒い鳥いないの?」
「いないよ」
「先代はずっと前に死んじゃった」
「だから嬉しい」
「女王様に会えて嬉しい」
………私、女王様決定ですか?
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