どうせ飛べない鳥ならば、ペンギンの方がまだましだった。
 
 
 
 
 
 
 
チョコチョコ大冒険!
 
 
 
 
 
眩しくなくなったような気がして、目を開けたら森の中にいた。
一瞬、頭の中が真っ白になる。
さっきまでは確かに部屋だった‥はず。
 
ワープ?瞬間移動?
 
…いやいや漫画じゃあるまいし。
絶対にありえない。
けれど小学生じゃあるまいし、ちゃんと夢と現実の区別くらいつく。
これは現実だ。
夢なんかじゃない。
 

「どうなってんの…?」
 
てくてく歩き出すけれど、景色が変わることはない。
どこまで行っても木、木、木、木…。
文字通り、【樹】の【海】みたいだ。
木々に人間の手が加えられた跡なんて全然ないし‥
…本当に樹海に入り込んでしまったのかもしれない。
 
樹海といったら富士の樹海しか思いつかないんだけど…
 
テレビなんかの特集で画面越しに見たことがある。
方位磁石が使えなくて感覚が鈍るから、迷い込んだら最後。
よく死体が発見されるという…自殺の名所。
 
「…ッ……」
 
背筋がぞっとした。
枝に人のし、死た‥お仏さんがぶら下がってたらどうしよう…!
地面に落ちてるのも嫌だけど、上からいきなり降ってくるのはもっと嫌だ。
しかも年月が経っていると体が腐敗して、臭くなってたりするらしいし…
食べ物がない動物たちがそれを食べちゃったりしてて骨が覗いてたら…気を失いそうだ。
 
 
警戒心Max。
かつてこんなに緊張して森の中を歩いたことがあっただろうか。
いや、ない。
森なんて義務教育の頃、林間学校でピクニックだか山登りをした時以来だ。
 
頭上を確認してから、辺りを360度見回す。
…異常なし。
続いて足元を確認。
 
 
「……ぃ…異常アリ」
 
死体が転がっていたわけではない。
糞を踏んでしまったというわけでもない。
気持ち悪い虫がうにうに動いていたこともある意味緊急事態だが、今はそんなこと気にしてられるほどの余裕もない。
 
 

本来私の足があるべき場所に 人の足がないのだから。
 

 
一大事だ。
夢であるようにと祈りたい。
あ、夢と現実の区別なんてきっと私にはまだ出来てなかったんだろうな、うん。
さっきは偉そうなこと言っちゃったけどきっとそう。違いない。
だって、まさか…
 

「まさか足が、鳥の足になっちゃってるなんて…ありえないもん」
 

大きな鳥の足。
例えるなら鶏の足を大きくした感じ。
たぶんダチョウの足が一番想像しやすいと思う。
間違ってもペンギンなんかの可愛い足じゃない。
試しに人差し指を動かす感覚で力を込めたら‥ちゃんと動いてしまった。
私は人間のお母さんとお父さんから生まれたはずなんだけどな。
二人のどちらかが鳥だった、とか?
もし、万が一、そうだとしても今更覚醒しないで頂きたい。
私は人間がいいんだー!ホモサピエンスがいいんだよー!!
 
 
「…もしかして」
 
嫌な予感がして思いっきり走った。
川か、海か。
とりあえず水のあるところならどこでもいい。
自分の姿を確認したかった。
1番いいのは鏡だが、こんな森の中でその辺に鏡が転がっている確立は0に近い。
人里を見つけて人に借りるって手もあるが、この姿じゃ無理だろうし…。
だから水を求めてがむしゃらに走った。
木々は凄いスピードで後ろへ後ろへと流れていく。
まるで吸い込まれていくようだ。
…ダチョウにだけはなりたくない。ダチョウにだけはなりたくない。
そう念仏のように唱えながら突っ走る。
 



 
見つけた!
 
森が途切れて平野になり、その少し先に砂浜と海が見えた。
全速力で駆けつける。
 

けれども、なかなか水の中を覗き込めない。
走っている途中で気付いてしまったから…。
視界に映る景色はいつもより広く、端にはふわふわした羽毛がちらちら見て取れた。
走る速度は明らかに人間としての限界を超えている。
きっと覗き込んだそこに映っているのは、今までの私じゃない。
人間の姿ですらない。
きっと…ダチョウ。
 

「きっと全世界初だよなぁ…目を覚ましたらダチョウだなんて」
 
物語ですら、あるかどうかあやうい。
そりゃそうだよね。
誰もダチョウになんてなりたくないもんね。
さっき試しに手をバタバタしてみたけど、ばっちり空は飛べなかったし…。
同じ鳥ならお空を自由に飛んでみたかったよ。
どうせ飛べないならみんなに可愛いってもてはやされるペンギンちゃんになりたかったよ。
 
あー…なんだか諦めもついたわ。
 
 
ぱしゃぱしゃとひざの辺りまで水に入り、ひょいっと水の中を覗き込んだ。
左右にゆらゆら揺れながらも、輪郭が映りだす。
やっぱり鳥だ。
それは間違いない。
けれどもダチョウにしては頭が大きい気がする。
 
さらに水面に顔を近づけて、よく目を凝らす。
丸みを帯びた大きなクチバシ。
顔のわりにデカイ、くりくりした丸っこい目。
頭のてっぺんには、人間でいうところのくせっ毛がピョコっと立っている。
ん?この鳥、結構可愛いぞ。
自分がこの鳥じゃなかったら、きっと可愛いと言って頭を撫でてやってるな。
 
 

ドスンッ!
 
「ぅわおっ!」
 

 
ドスンッ!
 

ドスンッ!
 

ドスンッ!
 

 
いきなり地面が揺れだした。
地震かと思ったが、こんな縦に揺れる揺れ方は考えられない。
初期微動も主要動もへったくれもないし。
世界の終わりか!?と一人で焦って騒ぎ立てる。
しばらくすると…
 
ズドン…!
「!?」
 
揺れは止まった。
同時に左方に大きな塊が見えた…。
サイズ的には戦車と変わらない。
というよりも戦車よりも大きい。
けれどもそれは乗り物でも機械でもない。
水に体を浸けるようにして、座り込んでいる巨大物体。
 

………。
 

なんだがここ数時間でだけで、一生分の覚悟をし尽くしたと思う。
いつも覚悟を決める機会なんて全然なかったからねぇ。
最後に覚悟を決めたのは、遊園地でお化け屋敷に入った時くらい?
…よし。いくか。
 


3
 


2


 
1
 
 


 
「ピ ギャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 
 
 
 


今まで生きてきた人生の中で1番大きな声を発した。
 
 
あ、今は鳥だから鳥生になるのかもしれない。















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